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「京子ちゃんとたっちゃんさ、文化祭来れる?」
顔を上げた俺を見て、二人は一瞬瞠目したが、たっちゃんの方はすぐに生気のない魚に視線を戻した。
「……うちは年中無休や」
俺はたっちゃんの作業場に詰め寄って、机を叩いた。その拍子息を吹き返したように机の上で魚が躍る。頑張れと、応援してるようだった。
「お願いだよ。会って欲しい人がいる」
もしかしたら美天ちゃんに会わなかったら、俺も二人と同じように思っていたかもしれない。予定通りに降る雨を気にも留めず、明日はどう過ごそうかと日常に思いを馳せていただろう。
わかってる。これは俺のエゴだ。
けれど知ってほしい。雨の降る先に彼女がいることを。
「しゃあないね。もう二匹買いな」
俺とたっちゃんの間に割り込んだ京子ちゃんの手にあったのは二匹の秋刀魚の開きだった。秋刀魚とたっちゃんを交互に見るとたっちゃんの口角が上がった気がした。
「商売上手だね。じゃあ来たら連絡して。迎えに行くから」
俺は魚を受け取り、二人に背を向け店を飛び出した。
彼女がただの機械なのだと、そう思ってほしくない。
諦めた声色、寂しそうな横顔、不器用な笑顔。
彼女の少ない変化が、いつも俺の心を動かすのだから。
俺は走りながらスマホを取り出す。
もう、幽霊とかフリーライターとかどうでもいい。
連絡帳の中から『演劇部』を選び、電話をかけた。
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