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ハッピーの気持ち
僕は、僕の家族がみんな好き。お父さんお母さんお爺ちゃんお婆ちゃん、そしてお兄ちゃん。お父さんは時々、僕を蹴っ飛ばすけれど。でも、一番に好きなのは、小さかった僕がこの家にいられるようにと、泣いて家族を説得してくれたトウコちゃんなんだよね。
トウコちゃんは、いつもご飯を分けてくれる、寒い日は一緒に眠ってくれるし、散歩にも一番多く一緒に行く。親友ってやつじゃないかって、僕は思っている。
その日、トウコちゃんが夜の散歩に連れて行ってくれた。僕たちは時々だけど、夜に散歩に出かける。危ないからってお母さんは止めるけど、トウコちゃんは聞かない。そして、僕にはわかっている。こういう夜の散歩に行くのは、大抵トウコちゃんに嫌なことがあったときで。
だから夜に散歩に誘われたら、僕はなるべく明るく、トウコちゃんに僕は幸せだと伝えるようにしているんだ。どこまで伝わっているかは、わからないけれど。
***
辿り着いた公園のベンチに並んで座る。トウコちゃんはこっちを見ない。ずっと空を見上げながら、話し続けている。
「だから、ね。新しいおうちに行ったら、今よりもずっと幸せになれるの。みんなあなたを大事にしてくれるから。ね、心配要らないよ」
新しいおうち。ご飯も、温かな寝床も、全部あるって。それはきっと素敵なこと。でも、そこにトウコちゃんはいるの? ねえ、僕たち、ずっと一緒だよね?
落ち着かない気持ちで見上げるけれど、トウコちゃんは上を見たままで、僕を見ない。その目に何が見えているのか僕にはわからないけれど、大きく瞠った目が、キラキラと池の面のように輝いていることはわかった。それは、トウコちゃんが哀しいとき、悔しいときに見せる顔。泣き出す前の、顔。
***
次の日。知らない人が来て、僕を連れて行った。
トウコちゃんは、一緒に来なかった。別れ際、やっぱり目をキラキラさせて、でも口の端を上げて、元気でね、大好き、幸せにね、そう言って手を振った。
それは難しいと思う。何があっても、どんなに恵まれていても、トウコちゃんがいない世界で幸せになるなんて。
***
新しい暮らしは快適、でもね、時々、トウコちゃんを思い出す。あのキラキラと輝いていた美しい瞳を。
Fin
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