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「ねー、ねぇね。今日、にぃにと何かあった?」
食事中、ふと投げかけられたリンからの問いに、思わず手を止める。
この子は、物心つきはじめた頃から、妙に勘が鋭く、感情の機微に敏感なところがある。だからと言って、こんな幼い妹に言い当てられるなんて思ってもみなかったわけだが。
「……急にどうしたの?」
「どうって言われても、なんていうか……よくわかんないけど。なんかねぇね、いつもと違うような気がして……そしたら、にぃにのことかなって思っただけだよ」
言語化は難しいにしても、アスカのわずかな違和感に気付くのはさすが。
おそらくは、アスカ自身でさえ全く自覚できていない、そんなわずかな挙動の違いから図星を突いて見せた。幼いながらその観察眼は、父親譲りであるとわかる。
「なんでわかるのよ……ほんと、鋭いんだから」
「生まれた時からねぇねの妹やってるんだよ? 当たり前だよ、このくらい」
いくら同じ時間の多くを共有する家族であれ、それを当然のものと言い切れるのは、一般的には当然でない。
あまり積極的に話したい内容ではないのだが、この妹を相手に隠し切るのは難しいだろう。アスカは観念して、シンとの間にあったことを話し始める。
「……生徒会と委員会のことで、ちょっとね」
「生徒会のお仕事? にぃにって、なんかやってたっけ?」
「あれで一応は風紀委員長なのよ、あいつ。まあ、実質風紀委員会は休止状態で、全く機能してないんだけど」
「そもそもにぃにが学校にあんまり来ないもんね」
「でも今日は来た。何故か昼からね。よからぬことを企んでるに違いない、そうとしか思えない」
シンの話をしはじめたら、徐々に怒りが込み上げてきた。もちろん言うまでもなく、それはリンにも伝わってしまっていることだろう。
一度息をゆっくり吐いて、心を落ち着ける。この程度の感情もコントロールできないとは、自分の情けなさが嫌になりそうだ。
「……そんなわけで、しばらくはあいつの動向に目を光らせなきゃいけない。一応釘は刺しておいたけど……どうも信用できないからね」
「うーん……そんな心配しなくてもいいと思うけどなー。だってにぃに、そんな悪いことしてなくない?」
シンが学校をサボりがちなことは、通う校舎の違う初等科のリンでさえ、家族だから当然把握している。だが、彼に持つイメージは、アスカのものとだいぶ乖離しているようだ。
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