1人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「こないだ隣のクラスの子が話してたんだけどー……にぃにがちょっとチャラい感じの男の人に絡まれてる女の人助けてるの見たらしいよ」
「あいつがそんなことを……?」
「うん。他にも、ひったくりを捕まえたとか、強盗を返り討ちにしたとか、いろいろ。ケンカとかも、迷惑な感じの人としかしてないみたいだし、ふつうにしてたら全然なんでもなくない?」
そう、シンの悪評がいまいち広がり切らない理由がまさにこれ。
確かにガラも悪いし、すぐに手が出るが、その手を出す相手はきっちり選んでいる。善良な市民に暴力を振るうどころか、むしろそういった輩から守っているとまで言える。
もちろん、相手が誰であれ街中でボコボコにするのは褒められた行為ではないのだが……現に、彼を称賛するような声も上がっている。
「悪い人やっつけてるだけなんだから、むしろヒーローみたいでかっこいいじゃん」
「でもあいつはヒーローじゃない。いくら相手が社会的に迷惑な人間だからといって、ケンカ売って回る行いが善であるはずがないもの」
しかしアスカは、絶対にシンの行いを許すことはない。むしろ激しい嫌悪さえ抱いている。
「いい? あいつのやっていることは、弱い者イジメと同じことなの。確かに、悪い人を懲らしめているようにも見えるけど……結局、その裁量はあいつの気持ち次第。理由を付けて暴力を振るっているだけ。今はよくても、いずれは増長して……ただ普通に過ごしているだけの、一般人にまで手を上げるようになるかもしれないんだよ」
「でも、そうならないかもしれないよね? にぃにがただ、困ってる人を助けたいだけかもしれないよ?」
「だとしても、このやり方ではダメなの。ルールがあるのだから、それを守らないやつは……志がどうあれ、社会的には悪よ」
体制側の人間として、ルールは絶対のモノとして扱うアスカの意見は、至極真っ当なものだ。
力が強いから……たったそれだけの理由で、例外を許してしまっては秩序が成り立たない。
と言うより、力のある者ない者がなるべく平等に生きていくために、ルールがあるのだ。決してシンの行為を見逃すわけにはいかない。
「……つーか、やることなすこと何もかもが中途半端すぎんのよ、あいつは。善にも悪にもなりきれてない……だから余計にムカつくの」
そしてこれは、体制側とかルールとは関係なく……アスカ個人としての、好みの意見。
善にも悪にも振り切らない信念の無い行動。そして何より、そんなブレブレな精神のままあらゆる能力で自分を上回ってくるその才能。
シンをシンたらしめるあらゆる要素が、嫌いで仕方なかった。
最初のコメントを投稿しよう!