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ふと、アスカは我に返った。先ほど、イラつきを表に出さないようにと決意したばかりなのに、またあからさまに態度に出てしまっている。
おかげで、二人しかいない我が家の食事風景が気まずいものになってしまっている。
これはお互いの精神衛生上よろしくない。特にまだ二桁の年齢にも達していない妹には。
「……中途半端なのって、そんなに悪いことなのかな」
それでも、沈黙を破ったのはリンの方だった。
「ねぇねがすごいだけなんだよ。そういう風に言えるのは」
「いや……私は」
言葉に詰まる。それは、リンの言葉が単なる賞賛ではないことが明らかだったからだ。
今のリンが、何を思ってこう言ったのか、まるで理解できない。どう言葉をかけるのが正解なのか、一切見えてこない。
テーブルを挟んだだけの距離が、今はこんなにも遠い。
「でもいいんだ。リンは、そんなねぇねのことが好きだから。強くてかっこいい、自慢のねぇねだから」
「リン……」
「それで、同じくらいにぃにのことも好き。あんまり会えてないけど……会ったら、絶対にリンに優しくしてくれるから」
年齢の割に大人びてはいるものの、やはり本質は甘えたい盛りの末っ子なのだ。この寂しい食卓について、何も思わないなんてことがあるはずがなかった。
ああ、不甲斐ない。不甲斐ない。守るべき妹に寂しい思いをさせて、自分はつまらないプライドで双子の兄と喧嘩して。それはわかっている。
わかっていても、引くことはできなかった。これを曲げるのは、自身の生き方を曲げることと同義。故に、決して自分から折れることはない。
「ごめんね。私がもっとしっかりしていれば……私がもっと、圧倒的に強ければ……きっと、今のようにはなってない。強くなるから……ねぇね、がんばるからね、リン」
「……ごちそうさま。お風呂入ってくる」
姉からかけてほしかった言葉は、これとは違うものだったのだろう。カレーを食べ終えたリンは、アスカと目を合わすことなく席を立ってしまった。
普段なら呼び止め、自分の食器は自分で片付けなさい……などと言っていたであろう場面。だが、とてもではないが今はそんな気分にはなれなかった。
「はぁ……やっぱダメだな、私。何が気に障っちゃったんだろ」
血の繋がった家族のことなのに、何もわかってあげられない。そんな自分の情けなさに嫌気がさしつつも、静かに食器の片付けを始めるのであった。
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