英雄の娘

7/13
前へ
/29ページ
次へ
…………  翌日、ベジタブール魔法学園初等科校舎にて。 「はぁ……」  歩きながら、思わず溜め息が漏れ出る。心なしか、教室へ向かう足も重いような気さえする。  というのも、やはり前日の姉とのやり取りがあったからだ。今朝もなんとなく気まずくて、朝食時もほとんど目を合わせられなかったし、会話も適当に相槌を打つばかり。さらには、いつもより早い時間に出て、一人で登校して来てしまった。いつもは姉妹揃って学校に行くのに、だ。 「どうしよ〜……ねぇねに昨日のこと謝れなかったぁ……でもでも、ねぇねだってあんな……リンのこと子ども扱いして〜……」  素っ気ない態度を取ったのは自分。けれど、姉の言い分に全く納得できていないのも事実。結果、「リンが悪い」と「ねぇねが悪い」の二つの気持ちで板挟みになってしまっていた。 「やあやあ、どうしたんだいリンちゃん! なにやらお悩みがあるようだね? よければボクに話してみてくれないかい?」 「ソラぁ〜……」  と、芝居がかったような自信に満ち満ちた喋り方で、リンに声をかけた者が一名。  金髪緑眼、幼いながらに整った顔立ちの。リンと並ぶと背が高く、容姿に関して言えば誰もが美形と称するであろう中性的な少女の名は、ソラ。  彼女もまた、リンとは違う英雄の血を受け継ぐ者にして、リンの幼馴染。入学前から信頼関係を築いており、リンが甘えたような声を聞かせる家族以外の数少ない人物の一人だ。 「おっと、そんな顔をしないで。キミには笑顔が一番似合うよ」 「ソラぁ……どうしよう、リン……ねぇねとなんて話せばいいかわかんない……」 「アスカちゃんとケンカでもしたのかな?」 「違う、違うの……ねぇねは悪くないけど、でもやっぱり悪くって、リンも悪いけど、でもそれはねぇねのせいで……」  要領を得ない、支離滅裂な言動。それでもソラは、リンをぎゅっと抱きしめながらうんうんと頷いていた。 「ひとまず、教室へ入ろうか。流石に廊下の真ん中にいたら、目立って仕方ないからね」  そっと腰のあたりを抱きながら、リンの教室の席まで誘導する。荷物を受け取り、ゆっくり椅子に座らせると、少しリンの気持ちも落ち着いてきたようだ。 「……ごめん、取り乱した」 「いいんだよ、誰にだってそういう時はある。ボクにだってある。謝ることじゃないよ」  普段、リンは人前であのような動揺した姿を見せない。ソラと二人だけの空間ならともかく、廊下のど真ん中という目立つ場所で、それを憚らず感情を溢れさせるのは、それだけ心の余裕が消えている証拠であった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加