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「リンには、ねぇねみたいに才能がないから、才能がある人の気持ちはわからない。ねぇねはすごい才能を持ってるから、リンみたいな才能のない人の気持ちがわからないんだよ」
「…………?」
ソラは、極めて真摯にリンの声に耳を傾けていたつもりだ。その上で「何を言っているんだろう」と本気で思った。
正直、困惑以上のものは何も出てこない。言っている意味がまるでわからない。
何故ならソラにとって、リンは才能のない者ではないからだ。
そもそも、才能がないなどと自称しているが、学校の成績は実技・筆記ともに学年上位であり、むしろ上澄み。明るくて人懐っこい、社交的な性格で人望もある。これで才能がないのなら、世の中のほとんどの人に才能なんてものは備わっていないことになるだろう。
何より、才能の有無を判断するにはあまりにも幼すぎる。才能があっても、まだ花開いていないだけかもしれない。それは努力を重ねた先にしかわからないことだ。
……だが、ソラはそれを口にはしなかった。
今は何を言っても、リンを傷つけるだけ。正論を言うのは簡単だが、彼女はそれを求めていない。だったら、少しでもリンの痛みや辛さを癒してあげる方向で動きたい。
「大丈夫、大丈夫だよリンちゃん……アスカちゃんだって、キミを悲しませたくはないはずだよ。だから、きっといつかわかってくれるさ」
確かにこれは、最初にリンが言った通り、第三者がどうこう言って解決できるものではないかもしれない。だったらせめて、時間が傷を癒すまでの間くらい、少しでも痛みを和らげてあげられるなら、それでいい。
例え気休めにしかならなくも。使い古された陳腐な慰めしかなかろうとも、今はこれだけで。
「……そろそろボクも自分の教室に戻らないと。リンちゃん、またあとでね」
「うん、ありがとソラ」
表情を見る限り、先ほどよりはだいぶ落ち着いているようだ。ソラの気休めも、多少の意味はあった。
この分なら、昼休みまでには表面上は平気に振る舞えるくらいには戻っていることだろう。
一度崩れると脆いが、そこからの立ち直りも早いのはリンの長所。経験上、ソラはそのことをよく知っている。
事実、それは当たっており、他のクラスメイトと話したり、授業内容を理解しようとするのに必死になったりしているうちに、姉に対して抱いていたまやもやもだいぶ薄れてきた。
切り替えの速さも、リンが自然と身につけた彼女なりの処世術のひとつ。幼いながらも、きちんと自分の心を守る術を、彼女はいくつも知っていた。
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