英雄の娘

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 高等科の特別教室棟、その最も日当たりの良い角部屋が、ベジタブール魔法学園の生徒会室である。  全面に敷かれた赤い絨毯や、高級感あふれる机や棚、そして座り心地抜群のふかふかソファ。広さは普通の教室とさほど変わらないが、役員はもともと少人数であるため気にならない。 「……ここだけ、お屋敷の部屋みたい」 「伝統と格式ある超名門で、実際、何十年か前までは貴族王族くらいしかこの学園に入学すら出来なかったらしいし。その当時の名残ってやつじゃないかな」  ついでに言えば、生徒会役員は学園の運営を担うエリート中のエリート。故に一般生徒から羨望の眼差しを向けられ、いくつかの厚遇も受けている。この豪華な内装もそのひとつ、というわけだ。 「さて、早速本題に入らせて貰うよ。単刀直入に言うと……二人とも、見習いとして生徒会の仕事を手伝ってくれる気はない?」 「え……? は……? なに?」  いつもの姉の、よく知る表情とよく知る声色で、まるで予想だにしない勧誘をされた。  そのギャップと、思わぬ死角からの提案に、リンの思考はフリーズする。頭が混乱し、何を言われたのかさっぱり理解していないようだ。 「なるほど、生徒会見習い! 流石はアスカちゃんだ、面白いことを考える!」  その一方で、ソラは既にだいぶ乗り気な模様。もはや返事を聞くまでもないだろう。 「うんうん、ソラならそう言ってくれると思った。リンはどう?」 「どう、って……意味わかんないんだけど⁉︎ 生徒会に見習いなんて聞いたことないし、その話をリンにしたことも、ぜんぶ!」 「はははっ、安心してよリンちゃん! ボクもまるでこの話の意図は理解してないからね!」 「どこに安心できる要素があるの⁉︎」  今のところ、ソラが底抜けにポジティブであるということしかわからない。そしてその情報は、幼馴染のリンにとっては既出だった。つまり実際には新しいことは何もわかっていない。  ただ、そういう一面に何度も助けられてきたことは事実で、現に今も、理由はどうあれ気持ちは上向いている。 「だけどひとつだけわかることがあるよ。アスカちゃんはボクたちのことを信じてくれているってことだけはね」  そしてもう一押しに、ソラの自信満々に言い放ったこの言葉だ。  もちろんそれは、リンも頭では理解していたつもりではある。アスカがなんの意味も理由もなく、こんなことを話すはずもない。ましてや、妹である自分のことを悪く言うなど、絶対にありえない。  距離を置いてしまっているのは、リン自身の方なのだと。
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