英雄の娘

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「ソラがそう言ってくれるのは嬉しいけど……ちゃんと説明しないとリンは納得してくれないだろうから、イチから話すよ」  リンを説得し、ソラを一旦落ち着かせるという意味も込めて、アスカは穏やかな口調で話し始める。  実際、リンが困惑するであろうことははじめからわかっていたことだ。何よりもまずは、彼女に対して誠実なる行動を。 「未来の生徒会長候補を、早い段階でピックアップして経験を積ませ、糧とし成長を促す次世代育成プログラム……そのつもりで、私が提案し導入に踏み切ったのが、生徒会見習いっていう新しい制度だよ」  とは言え、まだ仮導入の段階である。見習い制度が来年以降も継続できるのかは、ゼロ期生とも言えるリン、ソラの二人がどれだけ成果を出せるかにもかかっているわけだ。  そんな大役を任され、リンの心境はといえば。 「そんなの、なおさらリンなんかに務まるわけないよ……! 未来の生徒会長候補とか、ソラならともかく、リンはっ……!」  せっかく時間を置いて落ち着いていたはずのリンのメンタルが、またもや激しく揺らぐ。  心の奥底に押し込めていたはずの劣等感が、再び膨れ上がって破裂しそうになる。 「リンは、双子のにぃにねぇねみたいにすごい才能は持ってないの! リンみたいなの、出涸らしって言うんでしょ⁉︎ そんなリンが、ねぇねみたいな生徒会長になんて……!」 「……誰がそんなこと言ったの?」  思わず、その劣等感の全てを大好きな姉にぶちまけてしまう。こんなことをしても、何にもならない……あるいは、姉を嫌な気分にさせてしまうかもとわかっているのに、抑えることができなかったのだ。  だが、そんな姉の反応は、リンが予想していたものとは全く違っていた。 「私は、リンに私みたいになれなんて言ったことないし、リンのことを出涸らしだとも思ったことなんてないよ。誰かにそういうこと言われた? もしそうなら、ねぇねに言いな。二度とそんなこと言えないようにしてあげるから」  冬の冷風が吹き付けるように、背筋がゾクっとした。アスカの言葉にこのような感覚を味わったのは、リンにとってはもちろん初めてのことであった。  怒っているような、けれど優しく包み込むような……どちらとも言えないが、どちらとも取れる、そんな初めての声色で。 「……どうしてリンが、そんなに自虐的なのか、私にはわからないけど。もう、自分のことを悪く言うのはやめな? ねぇね、悲しくなっちゃうからさ」 「……うん」
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