英雄の息子

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 王立ギルドクライスターズ本社ビル、最上階マスタールーム。一般企業でいう社長室に該当するこの部屋の扉の前に、あの少年はいた。 「ルリ姉、いるんだろ? 開けてくれ」 「はいはい、ちょっと待っててね……っと」  中からそんな返事が聞こえた、ほんの三秒後には扉が開かれた。そして少年は特に遠慮することもなく部屋へ入っていく。  その扉を開けた女性……というにはまだあまりに若い。少年よりも少しばかり年上の少女は、名をルリという。名の通り瑠璃色の髪と瞳を持つ少女で、少年とは三歳差の幼馴染の間柄だ。  そんな少女が何故ギルドのマスタールームにいるのかというと、単純明快。ルリが王立ギルドクライスターズのサブギルドマスターであり、ギルドマスター代理の任に就いているからである。 「それで、今日はどうしたの? シン」 「はっ、わかってるクセによ。仕事だよ仕事。なんかいいクエストでも斡旋してくれよ」  そう、ここは冒険者ギルド。依頼人から寄せられた様々な依頼を冒険者に斡旋、またはその逆に腕の立つ冒険者を依頼主に紹介したりする仲介業者だ。  この少年……シンは、そんなギルドに名前を登録している冒険者の一人。およそ一年前、史上最年少の12歳にしてAランクまで上り詰めた凄腕である。 「仕事? 無いよ、そんなの」 「はァ⁉︎ なんで⁉︎ 去年フィアフィナ姉貴が辞めてから冒険者の人手は常に不足気味っつったのはルリ姉じゃねぇか! 仕事がねェハズが……!」 「そりゃクエストの発注は後を絶たないけどね。シンには依頼を回せないよ……あんた、評判悪すぎるもん」  そう、仕事がないのではなく、仕事を回せない……あるいは回したくない。シン側の素行の問題なのだ。  いくら相手が街や社会に迷惑をかけるアウトローとは言え、それを気ままに薙ぎ倒していくシンは悪目立ちをしすぎていた。悪評は社会の逸れ者たちのみに留まらず、表社会にまで轟くようになっていたのだ。 「大方……生活費と遊ぶお金稼ぎたいってとこでしょ? 今日はそんなに〝収穫〟少なかった?」  ルリのこの口振り。つい先刻、シンが大勢の不良をのしてきたことが看破されている。  そして実際、その通りとまではいかずとも似たような状況だ。怒りのままに暴れたせいで、金を巻き上げるのを忘れていた。現場に戻るのもカッコつかないため、数ヶ月ぶりに依頼を受けようとギルドまで赴いたというわけだ。
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