英雄の息子

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「そんなお金に困るくらいなら、家に帰ればいいのに……もう一ヶ月は家に戻ってないんでしょ?」 「なんでルリ姉がそんなこと……まさかアスカのヤツ……!」 「いや、姉さんの方からね。姉さんもあんたのこと心配……はしてなかったけど。たまには顔出してあげなよ」  今この場においては、何もかもルリの方が上手だった。事情も、ルリの姉でありシンの実母から筒抜け。  である以上、ルリが全面的に家族側の味方に回ることは明白であった。 「はっ、誰が帰るかあんな家……仕事が無ぇってんなら、もうここに用はねェ」 「ちょっと待ちなさい。家のこともだけど……あんた、今日学校はどうしたの? 今からでも授業受けてきなさいよ」 「あーあー、うるせぇうるせぇ。オカンかっての」  このように、詰められることはわかりきっていた。ならばさっさと退散するに限る。わざわざ粘るメリットは無い。  少なくとも、しばらくは大人しくする必要があることは確か。ここでルリの機嫌を損ねても良いことなど一つもないのだから。 「そんなに言うなら真面目に毎日通ってやるよ、学校へ。それで文句ねェだろ」 「……あくまで家に帰るつもりはないのね。お金はどうするつもり?」 「今まで通りそこらのバカどもから巻き上げるか、女共に貢がせるか……それがダメだってんなら、ルリ姉が俺を養えよ」 「はぁ⁉︎ なにそれ、身勝手すぎるでしょ!」  ルリが怒るのも無理はない話だ。これでは単なる強請りでしかない。  それに、いくら幼馴染とはいえ、そこまで面倒を見てやる義理だってない。あまりにも一方的で不平等な条件だ。 「嫌ならいいぜ、無理しなくても。俺がやることは何一つ変わらねェ。ただ学校に顔出してやるだけだ」 「あー、もう! ほんっとにあんたってやつは……!」  学校には通うが、それ以外は今まで通り。ひとつ妥協してやってんだから好きにさせろ、というスタンスを崩すつもりはないらしい。  いつからこんな傍若無人な振る舞いをするようになってしまったのか、思わずルリは頭を抱え込む。 「わかったよ、私の負け! ウチに来なよ。生活も最低限負担してあげる」 「おっ、ラッキー。言ってみるもんだな」  それでも好き勝手に暴れられて、多方面に迷惑をかけられるよりは……と、渋々この条件を飲むことにした。  今ここでボコボコにして強制的に実家へ送り帰すことも一応可能ではあったのだが、それは根本からの解決にならない。おそらく、すぐにまた家を出て、今度は自分のところにさえ顔を出すこともなくなるだろう。その方が厄介だ。 「ただし! 本当に最低限だからね。それとこれは、あくまでも貸し付けだから。シンの悪評が薄まって、クエスト受注を再開した暁には、ちゃんと全額返して貰うから」 「あーはいはい、わかってるよ。あのルリ姉がここまで言ってくれてんだ、成果としちゃ十分すぎるくれぇだろ」
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