英雄の息子

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 そしてさらに数十分後、王立ベジタブール魔法学園。ルリとの約束をきっちり守り、シンは遅れながらもきっちり自身のクラスの教室に訪れていた。 「おーす」  特に誰へ挨拶したとかではない。ただ〝自分が来た〟ということを知らせるためだけに、たった一言声を発したのだ。  実際、その一言で教室の誰もがシンの存在を意識した。一瞬……ほんの一瞬だが、ピリッとした緊張感が走る。 「俺の席は……と。悪いけど、ちょっとそこどいてくんね?」 「あ、うん……ごめん」 「いいよ。遅れてきた俺が悪い」  自分が不在の間、席に座って友達と談笑していた女子に話しかけてどいてもらう。シンとしてはたったそれだけのことだったが、やはり相手の女子生徒はよそよそしい。明らかに一定の距離感がある。  だがシンはそれを気にすることはなかった。こういう対応はいつものことだし、むしろこの方が楽だと思っているからだ。  路地裏の不良のように、クラスメイトに対して暴力を振るったり、悪辣に接するようなことはしないが、なんとなく避けられて孤立している。そんな立ち位置にシンは収まっていた。  さらに言うなら、シンの席はよりにもよって教室のほぼど真ん中。つまり、ドーナツ状に級友たちは避け、端の方に人が密集するという現象が起こり得るのである。  と、そんな普通の教室ではなかなか見れない光景も束の間、午後の授業開始を知らせるチャイムが鳴り響くとともに、数学担当の先生が姿を現す。 「はいお前ら席つけー。授業はじめ…………るぞー」  その数学教師は、シンの存在に気がつくと一瞬何もかもが停止した。「なんでいるんだよ」と言わんばかりの表情だったが、それでもなお見なかったことにして淡々と授業を開始したのだ。  とどのつまり、シンは教師からも煙たがられる存在なのである。  事実として、シンはギルド所属の冒険者としても一握りの精鋭であるAランク、さらにその上位として名を連ねており、この学園の生徒は愚か教師陣がまとめて挑んでも返り討ちにできるほどには強い。  その強さに加え、授業はサボるくせに成績は常にトップをキープし続けている。どんなに生活態度が悪かろうと、結果を残し続けられては教員側も口出ししづらい、というわけだ。  一学生の身でありながら、事実上の頂点に君臨する。それが学園での彼の立ち位置であった。
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