英雄の息子

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 結局、授業もちゃんと聞いてるんだか聞いてないんだか、教科書こそ開いてはいたが一切教師の方に顔を向けることなく午後のカリキュラムを終え、放課後になった。  あとはもう帰るだけ……なのだが、ルリとの約束である〝置き勉禁止令〟は守らねばならない。そして、シンは自身の机には一切物を持ち込んでいない……つまり、彼専用の道具置き場が学内には存在している。  なので、教室を出てまず向かうのは玄関ではなく、その置き場所という事になる……のだが。 「……チッ、何の用だよ」  廊下へ出てすぐのところで、とある女子生徒と対峙していた。  鮮やかな赤色のセミロングヘアー。それと同色の瞳は鋭く、シンを睨みつけていた。 「それはこっちの台詞よ。わざわざ午後から登校してくるなんてどういうつもり?」 「学生の本分は勉学だろ? 授業受けに来た以外の理由なんざねーよ」 「なら朝の始業時間には席に着いてた方がいいんじゃない?」  これ以上ないド正論を言い放った彼女の名はアスカ。シンの双子の妹にして、この学園で彼に唯一正面切って対抗し得るカリスマ生徒会長である。  昨年には、シンと同時に最年少でギルドのAランクに昇格した実力者。そして双子なのに性格は真逆を行く、互いにとっての最大のライバルとも呼べる存在なのだ。 「そもそも、今まであんたが登校してくる時は決まって朝からだった。わざわざ途中から来るなんて何かあったとしか考えられないのよ」 「別にィ? 他意も意味もねぇよ」 「どうだか……まあ、ルリ姉あたりになんか言われたんだろうけど。あんたが素直に言うこと聞くの、ルリ姉くらいしかいないし」  基本、仲の悪い兄妹ではあるが、双子だけあって全てお見通しだ。尤も、もとから隠すつもりもなかったことだが、こうもドンピシャで言い当てられると流石に少しイラッとする。 「で? 今から・何処に・何をしに行くの?」 「は? なんでお前にそんなこと教えなきゃならねーんだ。なんの権限があって?」 「私は生徒会長で、あんたは私からの信用がゼロ。これ以上説明いる?」  私の口から皆まで言わせるな、とその眼光は雄弁に語っていた。そもそも、シンの方も理由はわかっているのだ。ただ素直に答えるのが癪だっただけで。  そして、これ以上ゴネるということは、自らでアスカよりバカだと証明するようなもの。それはシンのプライドが許さない。ルリとの件もあり、揉め事も避けたい。 「……風紀委員室に寄るだけだ。風紀委員長なんだから、なんも不自然なこたァねぇだろ」
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