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そう、実はこのシン、名目上は風紀委員長……ということになっている。その証拠に、彼の襟元のバッジと左腕の腕章は、風紀委員に属する生徒のみが身に付けることを許されているものである。
「生徒会としては、あんたが風紀委員長に就任したって正式に認めてないんだけど?」
ただし、非公式。つまるところ、今のシンは風紀委員長を自称する一般生徒でしかない。
そもそもシンが風紀委員になった経緯というと、高等科進学直後、直接風紀委員室にカチコミに行ってその場で全員をボコボコにし、その立場と部屋を丸ごと強奪したというもの。そりゃ生徒会が承認するはずがない。
「だから委員会室を返せって? そりゃできない相談だな」
アスカの要求には、頑として応じない腹積りだ。揉め事をできるだけ起こしたくないというのも本音だが、いざとなれば決着をつけるのに躊躇はない。譲りたくないものは絶対に譲らない。
過去にも……それこそ、シンが風紀委員を乗っ取った直後も、アスカと激しく対立し魔法や武器を用いた本気の戦闘を繰り広げた。その時はシンがやや優勢、だがあまりにも長引き過ぎたことにより第三者の介入があり、有耶無耶になっている。
「それとも……先代にそうしたみてーに、力づくで認めさせてやってもいいけどな」
「やれるものなら……と言いたいところだけど、安い挑発には乗らないよ。多方面に迷惑かける事になるってわかりきってるからね」
ただの兄妹喧嘩が、この二人がやると洒落にならないことになる。なんせ学園にこの双子より強い者がいないのだから、下手に仲裁することもできない。
「そもそも、学園に存在するすべての委員会は生徒会の下部組織であることをお忘れなく……シン、あんたが風紀委員長に相応しい生徒かどうか、視察させてもらうから」
「…………視察?」
思いの外、平和そうな単語をアスカの口から聞いたシンは、ついつい聞き返してしまった。もちろん、言葉の意味を理解していないわけではない。
その意図について、彼は知りたかった。
「そう、視察。……よく思い返してみれば、あの時の私は冷静じゃなかったわ。いくらシンが力づくで風紀委員を乗っ取ったからと言って、私まで力づくで風紀委員を辞めさせようとしたら必ず互いに怨恨が残る。何も力と力でぶつかり合うことなんてなかったのよ」
最初は、何を言い出すのかと思った。けれど、聞けば聞くほどに、首筋を撫でられるようなゾワゾワした感覚が襲ってくる。
「待て待て……それ以上喋んな。なんか嫌な予感が……お前まさか」
「風紀委員長に相応しい振る舞いを私に見せてよ。そしたら認めてあげるからさ」
「喋るなっつったろ!」
シンは、アスカにルリの影を見た。
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