椎名くんは震えない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、彼氏の椎名くんが呟いた。 「どうしたの、椎名くん」 「灯油が切れたくさい」  そういえば、椎名くんの部屋の片隅に置かれていた石油ファンヒーターの方でさっきピーピー音が鳴っていたような気がする。   「ヤバいな。灯油を取りに行かないと」  今日は珍しく窓の外に雪がちらついていた。  確かにヤバい。椎名くんの部屋には壊れて冷たい風しか出てこないエアコンしかなく、こたつやホットカーペットなどの暖房器具はない。頼りになっていたのは部屋の隅にちょこんと置かれた小型の石油ファンヒーターだけだった。そのファンヒーターを動かす燃料が切れたとなると、この寒さを凌ぐ方法が完全になくなってしまう。 「いや、取りに行けばいいじゃん」 「この寒い中、廊下を歩いて階段を降りて玄関の外の物置まで行けと? お前は鬼か、藤川」  普通のことを言っているだけだと思うけどな。
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