椎名くんは震えない

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「分かったよ。しょうがない、私が灯油持ってくる」    私は仕方なくファンヒーターの蓋を開けて、灯油を入れる容器を取り出した。  するとその手の上に椎名くんの手が重なった。 「冗談だよ、藤川」  ドキッとして容器が足の上に落ちそうになってしまった。慌ててしっかり持ち手を握る。  椎名くんのあたたかい手が私の手をしっかりと包んでいる。  寒さを感じなくなったはずの手が、何故か震えた。 「一緒に行こうか」 「うん、そうしよ」  ずるいよな、椎名くん。  そうやっていつも私をからかって心を揺すぶってくれるけど、結局はこうして丸く収めてしまうんだから。  憎めないんだよね、どうしても。  私ってさっきのココアより激甘かもしれない。   「廊下、さむっ」 「大丈夫か藤川、死ぬなっ」 「いや、死なんけど」  二人で震えながら腕の外側をくっつけて歩く。  もしかしてこれがしたかった?  悔しいけど笑ってしまう。    それでもやっぱり寒いから、部屋に戻ったらもう一度一緒に美味しいココアを飲もう。      
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