不浄の雪に寒椿

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 雪の匂いのする風に吹き付けられる。身体が千切れてしまいそうに冷たい。  真っ白な雪の上に散った、真っ赤な庭の椿。いや、あれは椿などではない。あれは……。  「ふっ、くく…… 」  堪え切れない笑い声が、女の口から零れた。サクリと踏み出した裸足の足は感覚はないが、気になりはしない。  あぁ、何て楽しいんだろう。楽しくて、滑稽で、苦しくて、息が出来ない。  あの日も、寒い雪の日だった。白無垢を纏い、仲人に手を引かれこの家に嫁いで来たあの日。  初めて会う旦那様は顔色が悪かった。めでたい日だというのにどこか浮かない表情(かお)をしていたが、それはきっと、祝言の前で緊張されているのだと思っていた。  しかし、理由は直ぐに分かることとなる。祝言のニ日目の夜、部屋の布団で旦那様を待っていると襖の向こうに人の気配を感じた。  「おまえさんとこには、柿の木はあるかいな 」  しんしんと降り積もる雪の音だけがする中、掠れた声がやけに大きく聞こえて、気が張っていた身体がビクリと震える。  コクンと喉を鳴らして、私は母に教わった通り、「あります 」と答えた。
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