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結局、16歳になったリトが、飛び級でスタンフォード大学の医学部に進学する日まで、日本の捜査機関の手が彼女に及ぶことは無かった。
米国移住後も継続されていたリトの凶行を止めたのは、FBIの特別捜査班だったという。
捜査が進んで、次第にリトの少女時代の連続殺人も明るみに出るに至って、日本社会は震撼した。
ジェフリー・ダーマ―やジョン・ウェイン・ゲーシー、それら犯罪史に名を刻むような世界的なシリアルキラーに匹敵する猟奇的な連続殺人事件。
その犯人が、当時13歳の少女だった。
そういった事実がつぎつぎに明かされるに従って、社会現象にまで発展した。
ハリウッド女優顔負けに美しくなったリトの顔写真が、連日ニュースやワイドショーに映し出され、彼女を熱狂的に信奉する信者の団体まで現れた。
米国本土でも、美しいリトを偶像のように扱う人々が多くいて、彼女に関する数々の書籍が出版され、映画まで製作された。
◆◆
リトは、渡米する日。
「必ず迎えに行くから、待ってて」
空港のロビーで、そう言った。
「マサムネは、リトの表象の世界が閉じるその日まで、ずっとリトだけの所有物だから」
13年も昔の事。記憶のなかの風景は、すり切れたビデオテープの映像みたいに、細部が白い虫食い状態になっている。
「マサムネは、一生誰にも渡さないから」
ちゃんと、お別れをすることが出来なかった。
付き合いをちゃんと解消して、離れ離れになることが出来なかった。
それでも、相手の表象のなかでは、俺という存在は自然と消滅して、過去の思い出の人物になっていく。
時の流れに押し流されて、リトの心の中から俺は自然と抹消されていく。
そうなっていくはずだ、と思い込んでいた。
普通の女性と同じように。
新しい出会いを重ねるたびに、俺という存在は別の男へと上書き保存され、顔も思い出せない『過去の人』へと変わっていくはずだ、と。
だが、あの日のリトの言葉には、何一つとして嘘偽りが無かったのだ。
リトは、そのときの気分やムードに押し流されて軽薄な言葉を放ったわけじゃない。
心の底から俺のことをこの世でただ1人の恋人だと、宣言していたのだ。
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