56 終焉の大火災②

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56 終焉の大火災②

「ふ、ふざけるではないラグナ……! 貴様がこれを操れないのならば、この炎はどうなると言うんだ!」  先程までの余裕さはなくなり、ユナダス国王はラグナに憤りをぶつける。 「この炎はエルフ族の怒り。世界を焼き尽くすまで止まる事はないと思います」  ユナダス国王とは対照的に、淡々と言葉を続けたラグナ。彼は分かっていたのだ。最初からこうなる事を。  大陸でもトップレベルの魔道師となったラグナ。しかし、それでも遥かに強大な『終焉の大火災』を自分が操るなど以ての外。寧ろ発動させた事自体が偉業であり、止める術さえも分からない。  全部焼けて0に戻るのもありかな――。  ラグナは心のどこか片隅で、そんな気持ちを抱いていたのかもしれない。 「馬鹿な……。これでは『終焉の大火災』の力が私の物にならぬではないか……! これでは他国を脅かす事も、我がユナダス王国が世界のトップに君臨する事も出来ぬぞ……」  視線の先で暴れる炎を眺めながら、ユナダス国王は受け入れ難い現実と葛藤する。  間近で会話を聞いていたエレン達もここからどうするべきかと迷いが生じていたまさに次の瞬間、ラグナは再び淡々とした口調で驚きの言葉を発した。 「俺やそこにいるローゼン総帥でもこの炎は止められません。ですが、エルフ族の血を継ぐ混血の女神なら話は別です――」 「「!?」」 「え……僕……?」  ラグナの何気ない一言によって再び皆の視線がエレンに。 「『終焉の大火災』は他でもないエルフ族の魔法。唯一その大火災を操れるとしたら、混血の女神しかいないと考えるのが自然です。確かに俺自身が大火災を操るのは無理ですが、俺が“混血の女神を操る事が出来れば”結果は同じ」  ラグナの言葉に、この場の全員が度肝を抜かれた。彼の理屈は冗談でも突拍子でもない。確実性こそ定かではないが、エレン達全員を納得させるには十分な理屈であった。 「フ、フフフ……。ハーハハハハハ! そう言う事であったかラグナよ! 流石は我が息子! お前はそこまで計算していたのだな。よし。そうと分かれば話は早い。ラグナ! そやつを使って『終焉の大火災』を私の思うがままに操るのだ!」  数秒前まで途方に暮れていたユナダス国王に生気が戻った。でもそれはアッシュ達もまた同様。 「エレン君があの炎を?」 「確かに彼の言う事には一理ある。妾の知る限り、エルフ族の血を引いてる生き残りは貴方だけだしねエレン。でもそれだけで貴方が大火災を操れるかは疑問が残るわ。少し魔法を使っただけですぐ疲れちゃうんだから」  これは確かにローゼン総帥の言う通りであった。そもそもエレン本人にとっても寝耳に水な話。例えその可能性を秘めていると言われても、彼女はまともに魔法を扱えるレベルですらない。それはエレン自身も当然の事ながら、アッシュ達も理解している事実である。  だが。 「話の展開が早過ぎて混乱してるんだけど……。でも何でだろう……。僕まともに魔法なんて使った事無いのに、何故か『終焉の大火災』の炎を止められる気がするんだけど――」 「「!?」」  エレンも何故“その”感覚に陥っているのかは不明。  魔法もまともに扱えなければ、ローゼン総帥やラグナのように実力も伴わない。にもかかわらず、世界が今まさに終焉を迎えようとしているこの危機的状況で、エレンはふとそんな事を考えていた。 「おい、お前やっぱ大丈夫じゃねぇな。しっかり頭おかしくなってるじゃねぇか」 「おかしくなんかなってない……! 自分でも何で今こんな事言ったのか不思議だけど、でも、なんとなくそんな気がしてきたんだよ急に……!」  エレンの瞳は真剣そのもの。誰も冗談を言っているとは思えなかった。 「そうね。どの道妾もラグナも止められないのだから、可能性があるとすれば貴方しかいないわねエレン」 「マジかよ……。ローゼン総帥までそんな事言って。お前にそんな事出来るのかよ?」 「そんなの僕にだって分からない。でも、出来る出来ないは置いといて、もうやるしかないと思う――」  皆が絶望的な状況に陥る中、エレンだけは不思議と根拠のない自信に満ち溢れていた。そしてエレンが言った瞬間、地を焼き払う大火災の炎がより一層激しさを増した。 「さあ! 早くするのだラグナよ! その者を使い、『終焉の大火災』を制御するのだ!」 「さっきからエレンを物みてぇに扱ってんじゃねぇぞユナダス!」 「ちょ、ちょっと……! 幾ら敵国とは言え、相手は国王だよ!?」 「こんな時でもエレン君らしいですね。ですが例え相手が国王であっても、最後の善悪を決めるのは自分自身ですよ」  エドの温かい言葉はいつもエレンの救いになる。  アッシュの乱暴な言葉とは違って――とは、勿論アッシュ本人には言えないエレン。 「そうですね。確かにエドさんの言う通りです。僕はもう争いが起こるのは嫌だ。それにこんな訳の分からない炎に焼かれて死ぬのも御免だ」  エレンはアドレナリンで体の痛みを忘れていた。そして立ち上がったエレンは力強い足取りで1歩1歩前と前進していく。 「エレン!」  そんな彼女をアッシュが反射的に呼び止めた。だが、振り返ったエレンの表情を見たアッシュは自分の余計な心配にが馬鹿らしく思えてしまった。 「ふぅ……。いつもいつもお前には振り回されっぱなしだ。万が一の時はまた 助けてやるから、お前が出来ると思うなら行ってこい」  アッシュの素直じゃない激励。でもその普段通りの言葉が何よりもエレンには頼もしく、気が付けば押しつぶされそな緊張感も不思議と解かれていた。 「うん! 行ってくる――」  歩みを進めるエレン。  そして彼女の背中を見つめるアッシュ達。  誰一人としてエレンが何をするのか分からない。  それはエレンもまた然りだった。  しかし、そんなエレンの動きは微塵の迷いもない流れるような所作。1つの大きな灼熱の炎柱に近付いたエレンはそっと目を閉じる。すると彼女の体から淡い魔力の光が生まれ、その魔力はエレンの全身を覆った。  刹那、エレンの目の前にあった炎が生き物のように動き出すと、そのままエレンの体を全て呑み込む。その光景を見たアッシュ達も思わず息を呑み込んだが、全員がエレンを信じていた。  エレンを呑み込んだ炎は徐々に形を変え、彼女を包むような炎の球体となった。  そして。  炎に包まれたエレンはそっと静かに目を開ける。  するとそこにはいる筈のない――エレンにとって大切な人の1人である人物がそこに立っていた。 「ママ――」
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