第二章・ドワーフの村

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 ◆魔法が使えなくなった  ククは真夜中の森にいた。辺りは真っ暗で、光も何も見えない。  怪我はあったが、まだ何とか歩ける。しかしククは、自分がどこにいるのかまったくわからなくなった。そして、重大なことに気づいた。魔法を使うために必要な小枝をなくしてしまったのだ。  ククが魔法を使えたのは、クク自身がすごいからではない。小枝がククに力を貸してくれていたからだった。  大切な物をなくして、ようやくククは大切な物をなくしたことに気づいた。  小枝がなければ魔法が使えない。何も見えない。何もできない。  夜の暗い森の中で、ククはただ自分の無力さに絶望した。  でも、ぐずぐずしてられない。キキたちが心配してくれているか、危ない目に遭っているかもしれない。それに、闇の魔法使いの奴らが狙ってくるかもしれない。いずれにしろ、早く戻らなきゃ。とりあえず、森の中を歩こう。  ククは気持ちを切り替え、立ち上がった。足元に気をつけながら、触覚と勘を頼りに真っ暗な中をひたすら歩いた。  すると、真っ暗な中にかすかながら邪悪なオーラをまとった物が見えた。近づいて調べてみると、枝のような質感だが、ただの枝ではないようだった。  そう、それはシャドが持っていた小枝だった。恐らくシャドはこの辺りにいるのだろう。  ククはシャドの落とした小枝を拾い上げ、さらに森を進んだ。  シャドもまた、真夜中の森で迷い込んでいた。そして心細くなっていた。理由は暗い中で一人だからではない。本当に、小枝をなくしたからだ。  幼い時から今までシャドは、自分が一番強いと思い込み、他の人間を見下ろして生きてきた。しかし本当はシャドも、生まれつき魔法を使えない弱い人間だった。数年前、邪悪な小枝を手にしたことで魔法が覚醒するまでは。  魔法も使えない弱い自分など、魔王として、いや人間としてすら認められないだろう。このままでは自分はどうなるのか。小枝を失ったシャドは、不安と劣等感にただひたすら怯え、絶望するしかなかった。  時間が流れ、夜明け前になった頃。  向こうから邪悪なオーラが、シャドの元へ近づいてくる。  近づけば近づくほど、オーラを放つ物体とそれを持って近づいてくる者の姿が、か弱い月明かりで鮮明になってくる。あの憎き光の魔法使い、ククが邪悪な小枝を持ってきたのである。 「お前、ボクの小枝を盗もうとしたのか!」  シャドは怒って、ククの元へ走った。ククは慌てて訂正した。 「違うわ、落ちていたから拾っただけよ! ほら、返すわ」 「軽々しくするな!」  そう言って、ククはシャドに邪悪な小枝を手渡してあげた。しかし、シャドは小枝を乱暴に取り上げ、荒々しく言った。 「ボクはお前なんかと違う! 光を滅ぼさんとする、闇の魔王だ!」  シャドの悪態に、ククは怒った。 「いくら魔王とはいえ、してもらったことに対してその態度はないでしょ!」  その時突然、足に激痛が走り、ククは座りこんでしまった。 「大丈夫か?」  ククの異変に気づいたシャドは、小枝を振った。すると、魔法で傷が治り、ククは歩けるようになった。 「ありがとう。わたし、実は小枝がないと魔法を使えないの」 「お前……も、か」  ククはお礼を言った。自分以外にも魔法を使えない人間がいると知って、シャドは自分が受け入れられたように感じた。 「それじゃあ、今までお前らは、魔法なしでどう生きてきた?」 「みんなに助けてもらったの。キキも、私も」  ククはシャドの疑問に答えつつ、家族がいた頃を思い出す。 「できないことは他の人にしてもらって、できることは自分でやったの。血が繋がっているわけではなかったけど、キキと私たちは家族だったのよ」 「家族……」  家族という言葉を聞いて、シャドは何か思い立ったようだった。
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