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雪の音
あの日。
私はまだ幼くて、母とぎゅっと手をつないで歩いていた。
その日はとても寒くて、保育園からの帰り、私は機嫌が悪かった。わけもなくぐずぐず泣いていた。
「亜子ちゃん、どうしたん?」
私に話しかける母の声は誰よりも優しく、柔らかく、温かかった。
「だってね……さむい……」
「そうねえ、寒いねえ」
だっこして、と言いたいのに言えない。母が一日中仕事をしてクタクタに疲れているのを、子供ながらに感じていたから。
でも本当はだっこしてほしい。母のぬくもりで温めてほしい。
その葛藤で泣いていたのかもしれない。
母はそれをわかっていた。
ひょい、と私を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。
「子供は体温が高いから、亜子ちゃんに温めてもらおうかな」
まるでだっこをしたのは私がぐずったせいではない、というように、わざと大きい声で、道行く人に聞こえるように言うのだった。周りは暖かい雰囲気に包まれ、すれ違う人々の口角は少し上がっていた。
母の優しさは底なしだった。
だっこされて、母に温められていると、少しずつ氷が解けるように、私の心はほぐれていった。
「おかあさん、わたし、おもい?」
「重くないよ」
「おもいでしょ?」
「軽いよ」
何度となくそんな会話を繰り返した。母は私のしつこさに、一度も眉をひそめたことがなかった。
家までもう少しというところで、母が足を止めた。
「亜子ちゃん、雪」
母の肩に頭を預けてうとうとしていた私は、ゆっくり顔を上げて辺りを見回した。
空からひらひらと舞い落ちてくるものが見えた。
「雪が地面に落ちる瞬間てね、音がするのよ」
母は楽しそうに、秘密だよ、と唇の前で人差し指を立てた。
「誰にでも聞こえるわけじゃないの」
「わたし、きこえないよ」
「大丈夫。聞こえるようになるよ。深呼吸をして、目を閉じて。そして亜子ちゃんが大好きな人を思い浮かべるの。同じ頃、その大好きな人も亜子ちゃんを思い浮かべていたら、雪の音が聞こえるのよ」
「ほんと?じゃあわたしはおかあさんをおもいだす!」
「お母さんは亜子ちゃんを思い浮かべるね。いつも、絶対」
「いつも!ぜったい!」
私は歩道に降ろしてもらい、母と手を繋いで、目を閉じた。
ほと…………ほと…………ほと…………。
かすかに耳に入ってくる音。これが雪の音?
その音は母が私の名を呼ぶときのような、柔らかい音だった。
「きこえた!」
「お母さんも聞こえたよ。亜子ちゃんとお母さんは両思いね」
「りょうおもい?」
「お互いに大好きってこと」
「うん。りょうおもい。りょうおもいだね」
いつも、ぜったい。
祖母は母にきつかった。ほとんどいじめだった。祖父はめんどくさそうにして、祖母を咎めなかった。
私が小学二年生のとき、母は家を出ていった。
祖父母のせいだったのかどうかはわからない。私は幼すぎた。
『……ところにより、雪』
テレビから流れる気象予報士の声にハッとした。
雪……降るだろうか。
「亜子、ぼーっとするな。早くごはんにしなっ」
「あ、はい」
調理台の前で、祖母に叱られた。
高校は家から近い距離ではない。最寄り駅さえ、最寄りとは言えないほど遠い。つまり通学に時間がかかるため、朝が早い。しかしお弁当を作ってくれる家族はいない。私は自分でお弁当を作り、ついでに家族の朝食を作る。朝は四時半に起床しなければならない。
「亜子はあの女に似て、なんにもできないな」
祖母は言った。もう何千回と聞いてきた、祖母の口癖。
「亜子、お茶まだかー」
こたつから出ることなく、祖父が叫んだ。
お茶くらい、準備してくれていいんだよ。遠慮せずに。さあ。
心の中で嫌味を言う。本当に言ったら、どうなるだろう。どうせ母の悪口になるんだろう。亜子はあの女に似てる、って。
「駅まで送っていくよ」
父が玄関で声をかけてきた。私はかがんでローファーを履いていた。
「でも、帰りが困るから」
「電話くれ。迎えに行く。どうせ帰りは自転車に乗ってこれないよ」
雪の確率は九十パーセント。
「うん。ありがとう。でも、仕事、大丈夫?」
「亜子が帰ってくるまでには終わるよ」
コロナが流行して在宅勤務が促進されてから、父は雪の予報が出ると在宅勤務をするようになった。
父の車の助手席に乗り、駅に向かった。
しばらくは二人ともひと言も話さず、車内はしんとしていた。
途中、赤信号で止まると、父は口を開いた。
「亜子、進学……していいからな」
やっぱり、その話か。
祖母が大騒ぎをして話にならないので、家の中では話せない。
「うん。お父さん、ごめんね」
「謝ることない。お父さんが不甲斐ないからこんなことになってるんだ」
私は父が家族に隠れて母と連絡を取っているような予感がしていた。
父は去年、学校の三者面談に来たとき、
「大学に進学するなら、東京に出したいと思います」
と担任に言った。
その言葉で、私は確信した。母は東京で暮らしている。そして私と暮らしたいと思っている。父はそれを叶えてあげようとしている、と。
「おばあちゃんのこと、大丈夫?」
父は苦笑した。
「大丈夫じゃないから、内緒にしてるんだ」
午後の授業が始まると、雪は本格的に降ってきた。
グラウンドの土は数分で雪に覆われてしまった。
「うわ。すげえ」
クラスの誰かが言った。
私は深呼吸をして、目を閉じた。
ほと…………ほと…………ほと……………。
安堵のため息が漏れた。
良かった、お母さんはまだ私を思ってくれている。
母が出て行ってしまってから、私は毎年雪の音を聞く。そして母は私を捨てたのではない、今でも私を忘れていないのだと、雪の音を聞くことで、確認する。
帰りのホームルームが終わると、みんな外を眺めながら、ざわついた。
予想外の雪の多さに戸惑ったのだ。
雪国ではないが、毎年一度は雪が降るので、鉄道会社はレールにヒーターを入れている。おかげで電車は動くが、駅から家まではどうしようもない。
「亜子、雪がひどいしさ……またうちに来ない?」
「直哉……」
「今日も親の帰り、遅いし。な?」
直哉の、ニヤニヤが止まらない顔。そんな顔を見せられて、ホイホイついていく女子がいるだろうか。
先月、私は直哉と男女の関係を持ちそうになった。直哉の顔には
『このまえの続きしようぜ』
と書いてある。
「行かないよ」
「なんで」
「その顔、鏡で見てきなよ」
直哉はハッとして、一瞬で真っ赤になり、チェッと舌打ちをして離れていった。
私は少し直哉が好きだった。恋というほど好きではなく、クラスメイトというよりは好きだった。
先月。
駅の駐輪場で直哉に声をかけられた。
「亜子、ちょっとだけ、うちに寄っていかない?」
「……いきなり言われても。手土産、用意してないし」
直哉はプッと吹き出した。
「手土産って……。大人かよ。親、今日、いないから、手土産要らないよ」
ああ、そういうことか。
私は直哉に選ばれた喜びと同時に、この人は私の人間性は見ていないんだな、という落胆で、複雑な顔をしたんだと思う。
「あ、ダメ?」
直哉が少し動揺した。
「……勉強するだけなら、行くよ」
「おお!勉強しよう」
十八歳男子は噓が下手だ。目を輝かせている直哉に呆れながら、私は直哉の後ろをついていった。
押している自転車のカラカラという乾いた音が、虚しく耳についた。
結果、私達はキスだけで終わった。
私は初めてのキスだった。
全然ときめかなかった。ドキドキも、想像していたほどではなかった。
お母さんはこんな私に幻滅するだろうな……。
そんなことを考えていたから、余計にときめかなかったのだ。
十八歳にもなって、キスするときに親のことを考えているなんて。マザコンか。
直哉のキスがうまいとか下手とかはわからなかった。なんせ、私は初めてだったのだから。ただ、少し気持ち悪いな、と思ったのと、私の唇がガサガサに荒れていたことが気になった。きっと『プルンプルンの唇が最良である』と世間では決まっているんだろう。
先月の記憶が私に
「行かないよ」
と容易に言わせた。
自分の気持ちを大切にしたつもりだ。でもなぜか私はイライラした。理由はわからない。イライラしたまま電車に乗り、イライラしたまま最寄りの駅で降り、イライラしたまま父の車に乗り、帰宅したときは自分の感情をすっかり持て余していた。
「亜子、夕飯、鍋焼きうどんにしてな」
私の顔を見るなり、祖母が言った。
「材料、あるの?」
「今すぐ買ってこい。夕飯が遅くなる」
「……」
孫ってかわいいものじゃないのかな。こんなに自分のことしか考えない人がいるんだよな、世の中には。
「この雪の中?」
「天気なんて関係ないわ」
どうして……。おばあちゃんはどうして私を大切に扱わないの?私、たった一人の孫なのに。
直哉だってそうだ。私が断ったら、すぐほかの女子を誘うってこと、私は知ってる。
お父さんだって、私の味方をしてくれたことなんてない。いつもおばあちゃんの顔色ばかり窺って。
「おばあちゃんが買いに行けば?」
「は?なんだ」
「充分すぎるくらい元気なんだから、自分で行けば?私、大学受験の勉強があるから!」
言ってしまった。もう止まらなかった。
「なんだ、大学って。あたしは認めないよ」
「おばあちゃんがいるから大学受験するんだよ!そして家を出ていくの!お母さんをいびり倒して、追い出したくせに!私はおばあちゃんを許さない。絶対許さない!一生恨んでやる!あんな優しいお母さんを……」
「亜子、やめろ!」
車の上の雪を降ろして、私より数分あとに家に入ってきた父が、慌てて私の肩を掴んだ。
「なんでいっつもおばあちゃんの味方ばっかりするの?お父さんはお母さんを助けたこと、ある?おばあちゃんに毎日いじめられて……」
その瞬間、私の太ももに強烈な痛みが走り、廊下に倒れた。
祖母が私を蹴ったのだとすぐにわかったが、その事実を飲み込むのには、数秒かかった。
「……勝手に出ていけ」
祖母は私を見下ろして、捨て台詞を吐くと、居間に入り、襖をすべてピシッと音を立てて閉めた。
雪の音……。
私は必死に耳をすませた。
聞こえない。
お母さん……。
私は自分の部屋にこもって、何度も何度も深呼吸をした。母を思い浮かべた。でも雪の音はしなかった。
私がおばあちゃんに暴言を吐いたから?うどんを買いに行かなかったから?直哉の気持ちに応えなかったから?
お母さんはもう私を思い出したりしないの?
私はいつもお母さんにそばにいてほしかったよ。授業参観や運動会で私を見てほしかった。生理がきたとき、お母さんにいろいろ教わりたかったし、直哉とキスした日だって、私がなにも言わなくても、一緒に暮らしていたら、お母さんならきっとなにか察して、私にホットミルクを淹れてくれたと思う。お母さんがいてくれたら……。
「亜子、夕飯持ってきた。入っていいか」
ドアの外から、父が声をかけてきた。
そっとドアを開けると、大きいトレーに鍋焼きうどんが二つと、急須と湯呑みがふた口載っていた。
「なんでお父さんが私の部屋で食べるのよ」
甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれる父は、少し楽しそうで、目尻に皺がよっていた。
「亜子と二人でゆっくり食べれるなんて、初めてだからさ」
アルミの鍋に入った鍋焼きうどんは熱くて、出汁が濃くて、おいしかった。
「これ、コンビニの冷凍のところにあったんだ。ガスの火にかけるだけでできるんだぞ。すごいだろ」
父はドヤ顔で話しながら食べた。
知ってる。現代は便利なもので溢れている。
「つゆまで一緒に凍って出来てるんだな。作り方を間違えることもないな」
「まあ、そうだね」
私はてきとうに相槌を打った。
「だからさ、亜子が進学でこの家を出ても、なんにも心配要らないってことだ。今までずっと家事をやらせてきて、悪かったな。ありがとう」
父は俯いて、鍋焼きうどんの中からお餅をつまむと、私のうどんの中にひょいと入れた。
小学二年生から十年間、家事のほとんどをこなしてきたお礼が、ひと口サイズのお餅とは。
「……これだけ?」
「しいたけも欲しいか?」
「いや、いいよ」
父が真面目に言うのがおかしくて、私はクスッと笑った。父は私の笑顔を見て、勝手に満足そうに頷いていた。
父は何度も、うまいな、うまいな、と私に話しかけながらうどんを食べた。
食べ終わり、お茶を飲みながら、父はぼそっと話し始めた。先ほどとはテンションがあまりにも違っていて、そのせいで、父がいつか話そうと、ずっと心の中で温めていたのだということが伝わってきた。
「おばあちゃんはな、本当は後悔しているし、寂しいと思ってるんだ。素直じゃないだけで」
孫の足を蹴り飛ばしておいて、素直じゃないから、で済むとは思わないけど。
「亜子のお母さんが同居を承諾してくれて、この家に入ってくれたとき、おばあちゃんは喜んでな。お母さんを近所に自慢してまわったんだ」
「仲良かったの?」
「うん。まあな」
僕と亜紀さんは一緒に新幹線に乗った。両親に紹介するためだった。
亜紀さんは窓際の席で、外の風景を眺めながら、不安を隠さなかった。
「どんどん田舎に向かって行くみたいだけど……あなたの実家、どんなところ?」
横浜や東京でも特に人口が多く、地価が高いような場所にしか暮らしたことがない亜紀さんには、田畑と川しかなく、遠くには山が見えるだけの日本の原風景は、恐怖でしかなかった。
僕が一人っ子だったのと、東京本社から実家の近くの支社に異動になったのをきっかけに、亜紀さんは僕と結婚し、僕の実家に入った。あとから思えば、亜紀さん一人に多くの犠牲を強いてしまった結婚だった。
亜紀さんはもともと顔立ちがきれいで、普段着もカジュアルなのにおしゃれで、メイクも上手かった。僕の両親は亜紀さんをとても大切にした。特に母は亜紀さんが自慢で、どこに行くにも連れて歩きたがった。母は悪気なく、あちこちで亜紀さんの経歴を話してしまった。亜紀さんからすれば、自分の知らない人が自分の過去を知っていることが怖かったに違いない。
また、田舎特有の、近所とのコミュニケーションが密なことも、亜紀さんを苦しめていた。
亜紀さんが町に一軒しかない産婦人科に行くと、待合室で亜紀さんを見かけた人が母に伝えてしまい、亜紀さんが家に帰ると、既にお赤飯が炊けていたりした。
母の気持ちや近所の人の親切がわかるからこそ、亜紀さんは田舎の生活に馴染もうと努力してくれた。しかし亜子が産まれると、もうほとんどプライバシーなどないくらいに、周りの人達が接してくる。みんながアドバイスという名の口出しをしてくる。
ある日、亜紀さんは
「保育園に亜子を預けて、ちょっと街のほうに働きに出たい」
と言った。
みんなが亜紀さんを非難した。父と母も、朝から晩まで亜紀さんに説教し続けた。
毎晩、亜紀さんは寝室で声を殺して泣いた。僕がなにを言っても、亜紀さんの心には届かなかった。
しばらくして亜紀さんは亜子を保育園に入園させ、電車通勤して、少し遠くの街で働き始めた。
母はかわいがっていた嫁が自分のテリトリーにいないことが不満だった。また、孫を母に預けずに保育園に行かせたことが許せなかった。母は亜紀さんにきつくあたるようになった。孫をかわいがりたいのに、亜子は亜紀さんにべったりで、亜紀さんを罵倒している祖母を見て、亜子は泣きながら亜紀さんを守ろうとする。まるで自分は悪役ではないか、と母は思うようになった。母は近所に亜紀さんの悪口を言って回るようになった。あることないこと、嫁にいびられている、自分は被害者だ、と。
精神的に保たなくなった亜紀さんは、だんだん食事ができなくなり、毎日吐くようになった。髪が抜け、目の下のクマがくっきりしても、亜紀さんは亜子に笑顔を見せ続けた。
「体裁だけ、離婚しよう」
僕が提案すると、亜紀さんはホッとしたのか、涙を流しながら何度も頷いた。
亜紀さんの体力が戻るまで、亜子は僕が育てる、という約束で、亜紀さんは亜子を置いて出ていった。
僕は誰にも話さずに、亜紀さんと頻繁に連絡を取り続け、亜子の様子を伝えていた。亜子の学校の行事や卒業式や入学式などは、すべて動画を送った。
結局大学進学まで亜子を田舎に留めてしまった。
本当は孫をかわいがりたいのに、昔のことにこだわって、亜子に優しくできない母。ひねくれた接し方しかできないのに、亜子が一人で生きていけるように、家事を徹底して教え、なんでも自分でできる子に育てた母。
そんな母の怒った顔は、いつも涙が溢れるのをこらえているようにしか見えなかった。
三月末。
数日間、私は荷造りで毎日バタバタしていた。
一度、直哉から私のスマホにメッセージが届いたが、返事は返さなかった。十年後くらいに笑って会えるといい。
東京に引っ越す日は、父が最寄りの駅まで車で送ってくれた。
「お父さんは東京に来ないの?」
私は助手席で父の横顔を眺めた。今まで数え切れないほど助手席から父の横顔を眺めてきたが、今日が一番疲れて見えた。
「うーん。退職したら、って思ってたこともあったけど。その頃はじいさんとばあさんが八十になるからなあ。誰かが面倒を見なくちゃいけない」
家を出るとき、私は祖父母に挨拶をした。
「……ありがとう……ございました」
お世話になりました、とは言えなかった。なんとなく。
祖父は黙って頷いた。祖母は背中を向けたままだった。
私はいつか、祖母を許すのだろう。素直になれなかっただけだよね、と笑って。
駅の前に車を停めると、父は私の頭を撫でた。
「いい子いい子」
「やだ、やめてよ」
父の手を振り払うと、父は苦笑した。
「もっとこうしてあげれば良かったと思ってな」
と泣きそうな顔で言った。
「どうせ時々お母さんに会いに来るんでしょ」
「当たり前だ」
新幹線で東京駅まで。在来線に乗り換えてしばらくすると、母と待ち合わせている駅。
雪は降っていない。桜の花びらが時々舞っている。
雪みたい。
ほと…………ほと…………ほと…………。
かすかに聞こえる、雪の音。
りょうおもいだね。いつも。ぜったい。
母と、幼い私の声。歌うように、声をそろえて。
電車を降り、人の流れについていくと、改札が見えた。ホッとして改札の向こうに視線を移すと、ハンカチを握りしめて、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている母が、コンコースのど真ん中で私を待っていた。
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