心の琴線修理人

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それから数分後。 「よし、到着っと」 私は、東京は青山にある住宅街――その上空に浮かぶ雲に腰掛けていた。 眼下に見えるのは、白亜(はくあ)の壁も眩しい高級住宅街だ。 その内の1つ――屋根に、赤銅色(しゃくどういろ)の美しい風見鶏(かざみどり)がある家に、今回の修理対象者がいるらしい。 「あんまり厄介なお仕事じゃないといいなぁ」 なんせ、今日は私の初仕事なのだから。 「幸運のアミュレット。どうか、私を見守っていてね」 私はそう呟くと、左手の薬指に()めた指輪に口づけをする。 紅いハート型のガラス玉がついたその指輪は、私が修理人見習いとして生まれ変わりならぬ死に変わりをして来た際に、握っていた物らしい。 以来、私はこの指輪を……こうしてお守り代わりにして、肌身離さず身に着けているという訳だ。 (それに、この指輪を見てると、なんとなく落ち着くんだよね) きっと、生前の私にとっては、とても大切な物だったのだろう。 私はその指輪の石を一撫ですると、ひらりと風見鶏のある屋敷――その屋根の上に舞い降りる。 そうして、白いブラウスの胸ポケットから、銀色に輝くY字型の音叉(おんさ)を取り出した。 併せて、スカートのポケットからはピンク色に輝くハート形のモルガナイトの原石を取り出す私。 私はそのままモルガナイトをしっかり握ると、そっと――しかし、やや力強く、音叉に打ち付ける。 瞬間、突き抜ける様に高く……しかし、高原の朝の空気の様に澄みきった音を奏でる音叉。 その音は波の様に広がり、眼下の屋敷自体を包み込んでいく。 こうする事で、この建物にいる人達の琴線を共鳴させることが出来るのだ。 そうして、私はそっと耳を澄ませると――聞こえている心音の数と位置、それに共鳴している琴線の音を比べてみる。 すると、弱ったり――何らかの異常が発生している琴線の位置が分かる、という訳だ。
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