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私は早速、瞳を閉じたまま、心音の位置や琴線の音を辿ってみた。
と、心音はあるというのに、琴線の音が全く響いて来ない(と、思える程弱々しい)人物がいることに気付く。
(間違いない……!きっと、この人が対象者だわ……!)
私は、腰の茶色い革のポーチから、白いインクで骨の模様が描かれた黒い指貫グローブを取り出した。
そして、それを両手に装着するや、壁に掌をぴったりとつけてみる。
と、まるで実体が無くなったかの様に、壁を通り抜ける私の体。
そう、これは『スケルトングラブ』と言い、身に着けるとどんな分厚い壁でも通り抜けられる、修理人には必須のアイテムなのだ。
こうして、すんなりと屋敷内に侵入した私。
私は、先程聞こえた心音やその位置を頼りに対象者を探す。
と、言うのも――実は、心音というのは、一人ひとり個性があり、音や間隔がそれぞれ微妙に異なっているのだ。
なので、先刻、音叉への共鳴が弱かった人物の位置にあった心音――その音を辿っていけば、対象者に必ず辿り着くという訳である。
(まぁ、対象者さんがあんまり動き回って無かったら良いんだけど)
耳を澄ませ、屋敷中から聞こえる沢山の心音の中から、目的の心音を聞き分けながら、屋敷内を進む私。
そうして私が辿り着いたのは、屋敷の1番上――3階の角にある部屋だった。
ちなみに対象者は、先程からずっとこの部屋の中におり、外に出たりはしていない様だ。
私は、部屋の扉に耳を当てると、そこから目的の心音が聞こえているか、念の為確認をする。
(ん。琴線の音は微かにしか聞こえないけど、心音の音はしっかり聞こえてるね。この部屋で間違いない)
続いて、部屋内の音にも耳を澄ませる私。
部屋に対象者以外がいないか――そうして、対象者がどの様な状態か、を確認しているのだ。
対象者以外がいたり、対象者が眠った状態ではないなら、『眠らせ花』の花粉を飛ばして、彼らを眠らせなくてはいけない。
琴線の修理は、基本的には姿を見えない様にして行うものだが、ごくまれに……対象者が起きていて、尚且つ霊感が強かったりすると、修理人の姿が見えてしまう事もある。
故に、先ず眠っているかを必ず確認しなくてはいけないのだ。
(部屋には対象者の心音だけ。それに、この呼吸の音は……よく眠ってるみたい)
――良かった。
私は一安心しながら、対象者の部屋に踏み込んだ。
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