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ねずみ色のアスファルトはすっかり白い雪に覆われて、次の暖気までは決してその本当の色を晒してなるものか、という意思表示みたいに思えた。
冬の雪景色はなんだか、恋に似ている。
離れたところから眺めてみれば美しく感じるけれど、少し触れただけで、自らの体温で融けた部分から相手の本当の姿が見えてくる。
それすらも愛せるのか、こんなはずじゃなかったと踵を返すのかは人それぞれだ。でも、彼がどちらを選んでいたとしても、あたしが最終的に行き着く先は捨てられた今でしかないというのなら、もっと降り積もる雪の奥深くへ隠してほしかった。
こんな気持ちになるくらいなら、あたしのことなんか、最初から見つけてほしくなかった。
いずれ別れてしまう運命なら、そもそもどうして出会わなければいけなかったのだろう。
あたしはもう答えではなく、歩いてきた足跡しか残せない。それすらもいずれ降り積もる雪で見えなくなってしまう。彼に愛されないあたしのことは隠してくれないくせに、あたしが彼と共にいたという事実だけ、綺麗さっぱり消し去ろうとする、やわらかな氷の結晶。
気の利かない連中。
なにより、あたしは今も、彼のことが嫌いになったわけじゃない。
春には何も残さず融けて消えてしまうくせに、最後に彼の視線をあたしから引き剥がしたこいつらが憎いだけだ。
コートに積もりかけた雪を忌々しげに払い落としながら、駅へ向かった。
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