降雪

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 師も走る十二月、あたしは二年付き合った彼に振られた。    その日は窓の外で静かに雪が降り積もる夜で、やっぱりこういうのは暖かい部屋の中で眺めるからいいんだよね……なんていかにも平和ボケしたこの国の民らしい感想をあたしが宣った直後、彼が総員退艦を告げる艦長みたいな重苦しい表情で別れを切り出してきた。  当然のことながら彼に理由を問うと、好きな人ができてしまった、と鼻をすすりながら話し始めた。  窓の外の白いモノみたいに、気づかぬうちに降り積もったあたしへの小さな不満。それを童話で道に迷った双子みたいにぽろぽろこぼしたら、職場の後輩の女の子がきれいに啄んでくれた。  少しずつ彼の心はその子に傾いていき、一昨日あたしと彼の間に起きた小さな言い争いがトドメの一撃になったのだという。  たぶん本当なのは、その後輩とかいう(カラス)が彼の不満を摘み食いしたというところだけで、最後のは嘘。そうやって、あたかもあたしが全部悪いかのように言うことで、彼はあたしに心の底から(最低の男だ)と思わせながら離れてゆくつもりなのだろう。  彼がそういうことをする男だってことくらい、もうよく識っている。そんな小賢しいことをしなくても、過去に付き合っていた相手のことなんて、男よりも簡単に忘れられるのが女という生き物だ。  でも彼は、敢えてそうする。  女の大多数が該当するその原則から、あたしが外れていることを識っているから。  本当に大嫌いで、なんなら大嫌いだけじゃ足りなくて、殺しても飽き足らないくらいに憎まなければ、過去の記憶に耐えられないのがあたしだから。
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