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「美雪が僕のドナーだったんだね」 「知ってたんですか……」 「美雪の部屋に行った時、クリアファイルを見てしまった。中に、僕がドナーの人に出したサンクスレターと、以前僕が美雪に渡したメモがあった」 あの時、見られたかもしれないと思った。でも、恭一さんの態度は何も変わらなかったから、思い過ごしだと思ってた。 「それで、気になっていた答えがわかった。母さんの美雪に対する態度。司が美雪と同じ学科に編入した理由。少し調べたら、美雪のお父さんの工場に母さんの祖父が経営している長嶺商事が深く関わっていることも」 恭一さんは穏やかに話続ける。 今、何を考えているのかわからない。怒っているのか。そうでないのか。 雪は、どんどん降り積もっていく。 「美雪は、僕のドナーになったばっかりに、お父さんの工場を盾に自由を奪われたんだよね。あの日、美雪は僕に話があると言った。そして、自分の気持ちだと言って、あの花をくれた」 あの日、全部話すつもりだった。 でも、わたしは希望を持ちたかった。だから、スノードロップの花をあげた。 「イギリスに留学していた頃、下宿していた老夫婦が教えてくれた。スノードロップの花言葉は『あなたの死を望みます』。だから花をもらった時、僕の存在が美雪を苦しめているんだと思った」 そんな…… 「両親には、病気が再発するようなことがあっても治療はしないと言った。長嶺商事には絶対に手を引かせない。美雪はもう自由だから」 「違う。お花屋さんから花言葉は『希望』だって聞きました。希望を持ちたかったんです。お金のために近づいたんじゃないって信じて欲しかったから。わたしは、ドナーになる前から恭一さんのことを…‥‥好きで……」 涙が邪魔をして最後まで言葉にならなかった。 「僕はバカだった。全てなかったことにするのが美雪の幸せだと思ってしまった」 それは……わたしが思っていたこと。 「わたしとのことなんか忘れてしまった方が、恭一さんは幸せなんじゃないかって思ったんです」 「一緒に過ごした時間だけを信じるべきだった。そこに嘘はなかったのに」 雪が、恭一さんに降り積もっていく…… 「もっと早く聞けば良かった」 わたしの頬に、恭一さんの手がふれた。 「まだ、間に合うと言って」 返事の代わりに、恭一さんにぎゅっとしがみついた。 外はまだ寒いのに、何も考えずに出てきたと言った恭一さんは、あまりにも冷たくなっていた。 恭一さんの手がわたしの髪の毛に優しくふれる。 強く、抱きしめられた。 「たとえ仕組まれた出会いだったとしても、僕にとっては運命だった」 「わたしは、初めて会ったあの雪の日からずっと、ずっと、今も――」 「好きだよ。誰よりも美雪が一番大切だから」 恭一さんの言葉は、わたしが伝えたかった言葉。 恭一さんの、わたしの髪を撫でるその指も。 抱きしめてくれる手も。 全部。 全部、愛おしい。 冷たいはずの雪が、ふたりの間で溶けていく。 こんなに寒いのに、心の中は暖かくて、優しい気持ちであふれている。 1度目の出会いは、雪の日の偶然。 2度目の出会いは、必然。 3度目は、仕組まれたもの。 わたしが恭一さんのドナーになったのは、数百~数万分の1の確率の奇跡だった。 でも、本当の奇跡は―― 雪が降り積もって、全てを真っ白に変えていくように 雪と一緒に、募っていく想いは 4年前の今日から、はじまったこと そしてそれは、これからも、続いていく END
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