花に雨、君にジャージ

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 わたしと母の心配に対して、クラスメートは普通に優しかった。教室内でのカーストは固定しつつあったけど、争いなんかは見られない。少なくとも、わたしからは。  話したことのなかった前の席の小田原さんは、寡黙な美人で、身長の関係で一緒に組むことが多かった。わたしから話すことも無いので、周りのキャッキャと楽しくボールをラリーさせる女子たちの中、静かにボールをやりとりした。  色素の薄い髪の毛がさらさらで、瞬きする度に音が鳴るのではと思うほどに睫毛が長い。  ただ本当に寡黙なので、男子からも女子からも話を振られて「へえ」「そう」と短い返答をしない。それを知ったクラスメートたちは小田原さんへ絡む回数が減っている。  伊東さんが話していた内容によると、子役をやっていたらしいけれど今は芸能活動をしていない、とか。わたしと西条くんが話しているところへやってきて、噂話を聞かせてくれる。 「ねえ、カラオケ行こうよ、大翔!」  黒板を消して席へ戻ると、伊東さんが西条くんに絡んでいた。その後ろで日南くんがスマホを見ている。 「えー、めんどい。な」  こちらを見ているので、曖昧に笑みを浮かべてみせた。  西条くんはずっと変わらず、わたしに話しかけてくる。 「あ、朔良が行くなら行くわ」  ぽんと手を併せて、良いことを思いついたように西条くんが言った。
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