花に雨、君にジャージ

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 プールに浮かぶ身体。  濡れた服と、金髪。  冷たい体温。  いつもよりずっと寒くて、凍えるような夜で。  私は必要なんて無くなるのに、厚着をしてマフラーを巻いて行った。  いや、まさか。 「入院してちゃんと夜寝て三食食べたら、めちゃくちゃ健康になった」  あは、と朗らかに笑って、その女子の方へ振り向いた。 「そうなのー? もう喧嘩とか止めときなよ」 「そうしたいとこ」  その言葉に一同が笑う。ツボはよく分からないけれど、話は一段落ついたらしい。  心臓が痛い。  静かに財布から千円札を取り出して、カラオケの番号札に挟んだ。 「ちょっと、お手洗い行ってきます」と、そう言ってルームを出た。  春はもう去った。  湿った風が吹いて、木々を揺らす。  春と一緒に、すべての記憶を攫ってくれれば良いのに。
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