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砂に星、友に方便
GWが終わると雨が増えた。
月末には中間試験がある。あのカラオケの翌日に何か言われることもなく、わたしの日常は比較的穏やかに過ぎていった。
「朔良ちゃんってお弁当自分で作ってるの?」
ただ伊東さんと一緒にいる時間は増えていった。
「うん」
「え、すごい。お母さん作らないの?」
伊東さんは首を傾げて尋ねてくる。そういう彼女の弁当は彩り豊かで美味しそうだ。
「夜勤とかで忙しい時があるから。だいたい自分で作ってる」
「夜勤って何してるの?」
「看護師してるよ」
「格好良いね」
その言葉に気分が浮上する。母親の職業の話を他人にしたのは初めてだし、それを褒められるのは誇らしかった。
「へー、看護師なんだ」
後ろから西条くんが菓子パンを頬張りながら言う。それに対して伊東さんが振り向く。
「見て、お弁当めっちゃおいしそう」
「卵焼きとメロンパン交換しよーぜ」
「それ足りるの……?」
「足りないかも」
足りないのは困るだろう。メロンパンは受け取らず、卵焼きをあげた。
「さんきゅー、これ返す」
ぽーい、と投げられたのはチョコレート菓子だった。何とか受け取る。
「えー、ずるい」
伊東さんの小さい呟きにわたしは視線を向けた。
「卵焼き、いる?」
「あ、ううん。大丈夫大丈夫」
箸を持った手を振って伊東さんは言う。
その視線がチョコレート菓子に向いていることに、少しも気付かなかった。
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