花に雨、君にジャージ

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花に雨、君にジャージ

 物音に目が覚める。  残った桜が雨で散っているのが見えた。  教室内には誰も居ない。四時間目、体育だ。  雨が降ったから体育館にいるのだろうか。  三時間目から寝ていたから気づかなかった。  ポタポタという雨音に、窓の外を見る。  カタン、と後ろで物音が鳴って振り向いた。  前の釦を全て外した男子がいた。幸い、中に黒いTシャツが見える。  いや、何が幸い。  目が合ったが、お互い黙ったまま。 「体育、行かねえの?」  先に口を開いたのは彼の方だった。  起き上がって、焦ることもなくゆっくりとしている一部始終を見ていたのだろう。 頷くと、手を差し出された。 「ジャージ貸して」 「え」 「上の。忘れた」  有無を言わせない気配を感じ、頷いて廊下に出てロッカーを開けた。 中に入れたジャージを出す。 ……というか、誰?  後ろの席、ずっと居なかったから空席だと思っていた。 「ありがと」 「あ、はい」 「なんで敬語」  ちょっと笑って、彼はわたしのジャージを羽織った。 「短い」  笑ってわたしより長い腕の内側を見せる。そこから傷跡の端が覗いた。  丈はそこまででは無いが、袖が足りてない。男女兼用の高校指定のジャージだけれど、まず身長差がある。  短いのだから返されるだろうと思ったけれど、彼は袖を捲くって廊下を歩いて行った。  ……誰なの?  返して貰えるのだろうか、と思いながらそれを見送った。
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