砂に星、友に方便

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 周りのクラスメートも同じように喜び手を叩きあっている。バスケをやっていた頃の嬉しかった光景を少しだけ思い出した。 「ビッグマウスじゃなくなった」  ぽつりと小田原さんが言う。いつか西条くんに言った言葉だった。 「すごいね」  わたしはその横顔に声をかけると、そっと肩を竦めて小田原さんは応援の集団から離れていった。  表彰式を見るという伊東さんと分かれて、わたしは自販機へお茶を買いに行く。いつものペットボトルのボタンを押して屈むと、肩に負荷がかかった。  上を向く。 「つかれた」 「あれ、表彰式は?」 「あんなん誰かが出れば良いんじゃね」  西条くんがタオルを頭にかけたまま言った。肩から手が離れ、わたしは立ち上がる。同じ自販機でミネラルウォーターを買って、西条くんはベンチに座った。 「優勝おめでとう」 「ありがとー」  言った通り疲れているらしく、息を吐きながらペットボトルを開けた。 「今日、これ言うの二回目」 「何が?」 「優勝おめでとうって。親切にしてくれた先輩も、バドのシングルで優勝してたから」  一人で勝ち抜くのもすごいなあと思い返す。試合中ずっと走っている競技もすごい。 「誰?」  尋ねられ、わたしは西条くんの方を見た。タオルから覗いた瞳がこちらを射抜いている。  誰、と言われても。 「籠井先輩って人」  答えると、タオルが頭から落とされた。
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