砂に星、友に方便

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「用事あって」 「あ、俺も急用思い出した」 「何言ってんの、今日のMVPが」  そう突っ込まれて連れて行かれた。わたしが席を立つ頃にはもう小田原さんの姿は教室には無かった。  昇降口で靴を履き替える。先程した西条くんへの質問を日南くんから訊いたのではないとバレたらどうしよう。いや、彼には友達が多いみたいだし、誰かから訊いたのだと思うだろうか。  それより、なにより。  正門の方へ歩き出す。うちのクラスみたいに打ち上げに行くのか、男女が固まった集団が道を阻んでいた。  私が、四月一日に見たのはきっと、彼だ。  あの時は金髪で暗いし顔もよく分からなかった。教室で話したときも全く知らなかった。こんなところで再会するなんて。  再会といえど、向こうは少しもわたしのことには気付いていない。このまま何も言わなければ、このまま。  それでいい。  そもそも言ったところで何かが変わるとも思えない。彼はプールに浮かんだことによって生き方が変わったと言っていたけれど、わたしは何も変わってない。  人生はそういうものだろう。
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