花に雨、君にジャージ

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 高校に入学してから、只管静かに過ごした。  一週間もすれば周りは固まり始め、気づけばぽつんと一人でいることが普通になっていた。  でも、ずっと中学のときより楽だ。  一人で居ても何も言われないし、物が無くなることもない。  すごく、快適。  ちょっとは友達できるかなという期待はあったけれど、そんな贅沢は言わない。  そう思っていた。 「大翔(ひろと)、いきなり遅刻かよ」 「もう大丈夫なん?」 「つか最初の授業が体育って」 「いつ退院したの?」  後ろに人が集まっている……。  何ならわたしの席にクラスメートが座っている……。  ちょっと退いて、と言えない。その度胸がない。  始業までどこかで時間を潰さなきゃいけない。  そのまま教室を出て、一階の隅の自販機まで歩く。  やっぱりここ落ち着く。入学してからすぐに見つけた場所で、あまり人が来ないのも良い。  飲むヨーグルトを買って、始業直前に教室へ戻る。ちょうど担任が入るより前に教室へと入った。  同じタイミングでわたしの席に座っていたクラスメートが立ち上がる。滑り込むようにその席に座る。  ホームルームが終わると同時に、背中を叩かれて飛び上がらんばかりに驚いた。振り向くと、紙袋がずいと差し出される。 「え」 「ジャージ、助かった」 「ああ、いえ」  そうだ。ジャージを貸していた。それを受け取る。
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