花に雨、君にジャージ

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北河(きたがわ)、名前なに?」 「北河……朔良(さくら)です」 「なんで敬語」  少し笑った。その顔が整っているのに気づく。  わたしは受け取った紙袋を机の横へかけた。 「(いわ)もっちゃんに、北河なんて男子は居ないぞって言われた」 「岩もっちゃ……?」 「体育の。岩本せんせー」  既にそんなあだ名がつけられていたとは。  一週間前から教室にいるわたしより、彼の方がずっと前から居たみたいだ。そんな風に、馴染んでいる。 「あ、ジャージの名前で?」  わたしの脳みそは漸くそこへたどり着いた。急に岩本先生の話が出てきたのは、そういうことらしい。 「そうそう。ジャージの名前」 「え、で、なんて応えたんですか?」  その場面を想像して、さっと青ざめる。しかもジャージを貸しているわたしの方は体育には出ていない。 「なんで敬語?」  今度はきちんと疑問符がついていた。彼は目を瞬かせてこちらを見る。その睫毛の、長いこと。  窓から差す光が睫毛に降って、影を落とす。 「……久しぶりに、同級生と、話したから?」  同じように疑問符をつけて返してしまった。  でも、本当のことだった。 「いや、昨日話しただろ」 「話してないです」 「俺と話して、ジャージ貸した」  机の横を指している。わたしもその指先へと視線を向けて、彼へと返る。 「だから、敬語です」  昨日、久しぶりに同級生と話したので。
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