花に雨、君にジャージ

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 彼の頭の中でそれが補完されたのか、納得した顔をして頷いた。わたしは前へ向き直ろうと思ったけれど、自分がした答えを訊いていないことを思い出した。 「今日から北河でーすって答えた」 「え」  なんて恐ろしいことを。  席の周りを窺う。こちらを向く視線は無い。いや、一人の男子と目が合った。男子はそのままわたしから彼へと視線を移した。 「大翔、これプリント」 「あ、さんきゅー。よーすけ、これがジャージの北河だよ。北河朔良」  男子にわたしの紹介をしてくれた。よーすけと呼ばれた男子はわたしを見る。 「知っとるわ。これとか言うな」  ぺし、とプリントで彼の頭を叩いた。  知っているらしい。ちなみにわたしは、よーすけと呼ばれた男子のことも、彼の名前すらよく知らない。 「つか大翔は自己紹介したんか」 「初日にしてくれたと思ってた」 「誰がすんだよ」 「生霊に頼んどいたんだけどな」 「生霊……?」 「そのスピ的な発言やめろ。北河さんが信じたろーが」 「俺、この前死にかけてさ。そんで心が入れ替わったんだ」  からりと笑って言うので、わたしは目を瞬かせるしかなかった。あ、と思い出したように彼は自分を指差す。 「俺が西条(さいじょう)大翔。こっちが日南(ひなみ)陽介(ようすけ)。小学校が一緒」  他己紹介も兼ねてくれた。 「よろしく。ほらプリント」 「ああ、そうだった」  日南くんに頭を下げる。西条くんはプリントを受け取り、机に頬杖をついた。
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