花に雨、君にジャージ

5/14
前へ
/46ページ
次へ
 席へ戻る日南くんを見送り、わたしは前を向こうとする。  肩を掴まれ、元の位置へ戻された。 「これこの前使ったプリント?」 「え、うん、そう」 「穴埋め見せて」  授業が始まるにはあと五分あった。わたしはプリントを出して渡す。 「恩にきる。今度なんか奢る」 「いや、別に。……死にかけて、一週間休んでたの?」 「そ。この前まで入院してた」  どこか悪くしていたのだろうか。入院するような持病があったり。  人は見かけによらないな、とわたしは心のどこかで思った。  そして昨日の、腕の内側にあった傷を思い出す。 「朔良」  名前を呼ばれ、そちらを見た。人懐こい笑顔を浮かべている。 「ありがと」  プリントが返ってくる。西条くんに友人が多い理由がわかる気がした。  西条大翔が登校してきたことによって、わたしの学校生活は少しだけ変化した。  まず、話す相手が出来た。 「見て。この前バスケしてたときに、水たまりにずっこけた陽介」 「わあ……」  後ろから肩を叩かれ、スマホの写真を見せられる。緑のTシャツを黒く濡らす日南くんの姿があった。 「そんで同じ水たまりにずっこけた俺」  スワイプすると、同じポーズをしてスマホに写る西条くんの姿。黒いTシャツとジャージの下が黒く濡れている。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加