花に雨、君にジャージ

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「そんなことないよね!?」  伊東さんが必死に言うので、わたしは笑顔を作る。 「そんなことないです」 「じゃあ敬語外してよー」  女子とも久々に話したので、距離感が掴めない。特に、こういう教室内でのカースト上位に入っていそうな女子とは。 「蔵島って結構遠くね?」  西条くんが構わず尋ねてくる。 「蔵島ってどこ?」  首を傾げる伊東さんに、西条くんが視線を向ける。 「南の方。電車で三十分くらい」 「あたしとは反対側だ」 「俺は同じ方面」  各々の意見を聞いて頷き、尋ねてみた。 「伊東さんはどこの中学だったの?」 「鷹野(たかの)中だよ。由奈(ゆな)と一緒」  由奈って誰だろう。鷹野ってここら辺の地名だった気がする。 「あと陽介とも同じだ」  西条くんの補足に、わたしは漸く知っている名前を聞けた。 「そうそう、日南も。他クラスにも結構いるよ。大翔も同じ中学の子いないんでしょ?」 「たぶん」 「何たぶんってー」  二人の会話が始まったので、そろりと机に向き直った。  中学事情、色々あるんだなあ。わたしは誰も進学しない場所を選んだから。  窓の外の桜はもう散って葉桜になっていた。  そんな生活の変化に少しずつ慣れていく。  人間は慣れる生き物だ。乗る電車、歩く道、昼休憩をする場所、番号順に当てる先生。  後ろの席は四月の一週間以降、皆勤賞だ。
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