花に雨、君にジャージ

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 おはよお、と間延びした声が聞こえて顔を上げる。 「おはよう。日勤?」 「今日休みー。最近学校どお?」  眠そうにしながら母はソファーに座る。わたしは食パンを頬張りながら、何と答えるのが正解か考えた。 「教室行って授業受けてる?」 「受けてる」 「そっかあ。十分だよお」  それを聞きながら、とても低いハードルを飛んでいる想像をした。この調子では、わたしは一生空を飛ぶことは叶わないだろう。  空なんて、飛ぶつもりもないけれど。 「前の席の子とは話したあ?」  小学生にするような質問だ。それでも、母が色んなことを考慮してそうした質問をしてくれるのが判っていた。わたしはそれくらいには、もう大人なのだと思う。  前の席に座っている女子を思い出そうとするけれど、ぼんやりとしか思い出せない。 「後ろの子とは、話したよ」 「え、どんな子だったのお?」  どんな子。  最初は、そうだ。 「ジャージ貸してって言われて」 「え、なにそれ」  母の声が低く暗くなる。 「返ってきたの?」 「ちゃんと、洗濯して返してくれたよ」 「なら良かったあ。仲良くなったら家呼びなよお」  ね、といつもの明るい調子に戻り、キッチンへ向かった。その背中を見てわたしの方が安堵する。  でも、西条くんと仲良くなることは無いだろうし、家に呼ぶこともないと思う。  残りの食パンを口に詰めて、カフェオレを飲み干す。いつも学校へ行くのは始業ぎりぎり。教室に行っても、話す相手がいないから。
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