亡国の影

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様々なことを教えて貰ったが、毎日城内で繰り返される講義に僕はいつしか退屈を覚えるようになった。 学ぶのは好きだし、知識が増えていくのも楽しい。 ただ、もはや話だけで僕の好奇心を満たすのは不十分だった。許されるならもっと広い世界に触れてみたかった。 『そうですか。ナギ様は立派に成長されましたね』 嬉しそうに微笑むロナンに、僕は尋ねた。 『僕を育てて何の得になるんだ?』 『私にはナギ様が必要なのです。それにこう見えて、私にも野望があるのですよ。ナギ様は(さと)いお方だ。必ずや立派な御仁になられる』 『僕が必要…?』 『はい。私はいつでも貴方(あなた)様と共にあります』 いつも穏やかに僕を包む彼の声が、耳の奥に残っている。支えてくれた彼の言葉と微笑みは片時も忘れたことはない。(いや)しい生まれのくせにと(さげす)まれた僕に忠誠を誓い、自分の持て得る全てを教えてくれた。 日陰の身分の僕に政治的な利用価値があるとは思えなかったが、自分を認めてくれるロナンは最大の理解者だった。 「お前、ロナンの影だと言ったな。どういう意味だ」 夕食を口にしながらの僕の問いに、男は笑った。 「俺と彼はいつも共にある。お互いに相手の考えがわかる」 「そうか。羨ましいな」 テオは人懐っこくて僕を見下したりはしなかったが、僕は弟のことは何もわからない。弟が僕をどう思っているのかも。 「お前の両親は平気でお前を(ないがし)ろにするんだな」 彼の迷いのない口調に、僕の鼓動は速くなった。 「自分たちは安泰で、お前だけを犠牲にするやり方に疑問を持たない。全く気に入らないね。王族以前に家族でもない」 「…なぜ知っている。ロナンが話したのか」 「言っただろう。俺たちは一心同体だ」 彼は得意気に胸を張る。 ロナンはそれほどまでにこいつを信用しているのか。 「僕の母は側室だからな」 「そういう問題じゃない。お前は心まで囚われてるのか」 彼は鼻息を荒くしてスープをかっ込んだ。彼が僕のために怒ってくれるのが、何だかくすぐったくて嬉しくなった。 「俺はロナンのためなら何でもする。お前を守れと託された。だけど、俺自身がお前のことを放っておけないのも本当だ」 「お前、いいヤツだな」 「ふん。お前に言われても嬉しくないね」 憎まれ口を叩いたが、彼の横顔は満更でもなさそうだった。 「もう少しだけ辛抱しろ」 「…ロナンは、生きているのか」 「まだ連絡はない」 怪我でもしているのか もう会うことは叶わないのか 聞きたかったが彼も表情を硬くしたのを見て、僕は言葉を飲み込んだ。二人とも同じ気持ちであるのを感じて、僕たちは黙ったまま夕食を食べ終えた。
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