亡国の影

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翌朝起きると、男はいなかった。 焚き火は消えかけていて、外から冷気が入り込んでくる。置き去りにされたような気分になり、心細くなった。 彼も饒舌ではないが、いてくれるだけで僕の孤独感は和らいだ。口は悪いが僕を助けてくれたのは事実だし、城を見捨てた僕を責めたりもしなかった。 もうこれ以上 誰かを失いたくないのに 昼過ぎになって彼がふらっと姿を見せた。 僕は内心ほっとしたが、また子ども扱いされるのも(しゃく)だったので、顔には出さないように彼を一瞥した。 「遅くなってすまない。城が明け渡されたと聞いて、様子を見に行って来た」 全身が粟立った。 「…本当か」 「国王と王妃は見せしめに処刑された」 城が陥落した。 テオは人質として敵国へ連れて行かれた。愛嬌のある無邪気な弟は、たとえ飼い殺しにされてもそれを受け入れて生きていくだろう。テオの命が助かるならと両親は抵抗しなかったそうだ。 僕はもう自由なんだ 国と家族を失ったのに、喜びの感情が溢れていた。 既に気が触れてるのかもしれない。 こんな日が来るなんて思ってもみなかった。 だが、同時にロナンの不在が重くのし掛かる。 「…皮肉だな。やっと自由を手に入れたってのに」 孤独はどこまでもつき(まと)う。 これからどうすればいいのだろう 共に過ごしたい人がそばにいない。目標も楽しみも、ロナンがいてくれたからこそ僕の中に息づいていた。 男が不思議そうに尋ねた。 「どこへだって行けるし何でも出来る。何が不満だ」 「…独りになるのはもう嫌なんだ」 また笑われるかと思ったが、彼はそうしなかった。 「俺も、お前の友でありたいと思っているぞ」 僕は顔を上げた。 穏やかに笑う彼の眼差しはとても優しかった。 「まだ会ったばかりなのに」 「なれるさ。お前が望めばいつでも誰とでも」 彼の気持ちは嬉しかったが、ロナンは僕にとって特別な存在だった。 「それでもロナンに会いたい。彼がいなければ、僕の未来に意味はない」 彼が小さく笑った。 「実はな。お前を影にと進言したのはあいつなんだ」 僕は息を飲んだ。理解が追いつかない。 まさか ロナンが 僕を苦しめてきた原因だなんて…
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