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side:ゆき 雨のち、
金曜日の朝。
昨晩会社帰りにスーパーで買った、見切り品の食パンをかじりながら、ちらちらとスマートフォンを確認してしまう。
新規メール受信ゼロ件。
――そりゃ、そうよね。
体調を崩して、寝込んでいるのだったら、メールを確認する余裕なんてないだろうし……。もうちょっとだけ、待ってみよう。
ソファーから立ち上がったところで、スマートフォンが着信を告げた。
「えっ」
――篠生さん⁉
スマートフォンに飛びついて、通話ボタンを押す。
「も、もしもし」
『椿井さん、ごめん俺……』
寝ててメールに気付かなくて、と続ける声に、違和感。ふにゃふにゃとして、覇気がない。
「いいわよ、そんなの」
ソファーに座りなおす。
「こちらこそ、ごめんなさい。お休みしてるところメールして……」
『……いいや』
「えっと、体調は大丈夫?」
『ん、どうだろ……いや別に、身体はなんともないんだけど……』
尻切れトンボに消えていく。
言葉の続きをじっと待つけれど、しばらく沈黙。
『……っ』
聞こえてくるのは震えるような息だけだ。
「篠生さん……?」
『ごめん、今ちょっと情緒がガタガタっていうか……』
やっぱり、声が揺れている。
――もしかして、泣いてる?
「……なんかあった?」
『や、うん、まあ……』
「…………」
時計を見た。七時四十分。そろそろ出る時間。けれども、いつもと違う彼の声はエスオーエスにも似ていて。大きく息を吸った。
「今、行くから。待っていて」
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