187人が本棚に入れています
本棚に追加
そのあとは、パーキングエリアに寄り、フードコートで昼食をとる。何の変哲もないパーキングエリア。
しかし、この地は――
「この角度……間違いないわ」
「ああ。ブログの写真と一致してる。
PVロケ旅行の時、座ったのはこの席だな」
――そう、ここは知る人ぞ知る、レペトワの聖地なのである。
「そして、オーダーしていたのは確か」
ゆきさんが頷いた。
「カレーコロッケ丼」
レペトワ聖地巡りを一通り堪能した頃、空に茜色が射し始めた。今日が終わればまた、しばしの別れ。
寂しさを紛らわすように「……帰りたくないな」と甘えれば、「ちょっと寄り道しようか」とゆきさん。
海岸線、すでに閉まった土産屋の駐車場に車を入れると、無防備な彼女の頬にキスを落とした。
「……もう、急に」
頬を染めたゆきさんから、非難の目を向けられる。
「許可制にしたほうが?」
にっと笑ってみれば、ついと目を逸らされた。
「またそういう屁理屈を」
「明日からまた頑張るために、ご褒美ちょうだい?」
彼女には、つい甘えてしまう。
「……もう」
困った顔をしながらも、受け止めてくれるからだ。
彼女が、たどたどしい手つきで俺の頬に触れ、唇にそっと口づけてきた。触れるだけのキス。離れていく彼女を、摑まえる。
「ゆきさん、もうちょっと――」
遠くから聞こえる波音に、交わって消えるリップ音。
溺れてしまうくらいに、幾度も唇を重ねる。
きみが好きだと、何度でも伝えるように。
「あのさ、ゆきさん」
蕩けた瞳が向けられる。
この頃、密かに考えていたことを、そっと口にする。
「よかったら、一緒に住まない?」
「……え?」
ゆきさんが、大きく目を見開いた。
「そしたら、今みたいに月一でしか会えんこともなくなるし、寂しくないじゃん」
――主に俺が。
最初のコメントを投稿しよう!