キラキラ

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「なぁ海斗、頼む!一緒に来てくれないか?お前がそういうの好きじゃないってのは分かってるんだが、どうしても!」 この夏に金髪に染めた友人が必死の形相で僕を見ている。 「うーん、はぁ。もういいよ、相手は?」 「え、いいのか!ありがとう!お礼とかじゃ全然ねえけど、相手は聞いて驚けっ吉井さんグループだ!」 「あ、そうなんだ。」 「リアクション薄いな!」 内心ドキドキしていた。 吉井さんといえば、このクラスでというかこの学校で一番綺麗な女性だ。そして、僕は彼女のことが気になっていた。 渋々彼の頼みを受け入れたが、付き合えるチャンスになった。過去の僕に感謝だ。 「で?」 「ん?」 「場所は?」 「ああ、それがその、」 「ん?」 「う、海だ。」 「えっお前それはっ聞いてないぞ!」 先程とは違う意味でドキドキしている。 「ごめん、でも初めに海っていうと海斗絶対乗ってこねぇじゃん?」 「まあ、そうだけど。うーん。」 「そこをなんとか、な!」 「わかったよ。」 "夕焼け"や"波の音"はキラキラしている。青春の1ページのように光る景色だ。 だが、吉井さんとのチャンスが待っている。背に腹はかえられないよな。問題はどこまで我慢できるかだ。 当日。暑い夏。 水着という肌面積の多い布で包まれた彼女の姿はとても魅力的で綺麗だった。 「吉井さんはやっぱり綺麗だね。」 「やっぱりって何よ笑」 少し顔が赤くなっているように感じた。照れて笑った顔も可愛い。照りさす太陽の光は、キラキラと海を輝かせている。最高で最悪のロケーションだった。 「海斗、何二人でいちゃついてんだよ。ほら、場所とろうぜ。」 「おう、二人も行こうか。」 僕と達也、吉井さんとその親友の小暮さんの4人。誰も付き合ってはいないが、ダブルデートの気分だった。 「小暮さんもごめんね、急に達也が誘っちゃったみたいで。」 「えー全然いいよ!そ、そんなことより私たちのこと、名前で呼んで。なんか距離遠く感じちゃうから、ほら、私が奈緒でこっちが・・・」 「あ待ってわかるわかる。じゃあ名前で呼ぶね。」 視線が熱い。熱く感じているのは、この気温のせいか吉井さんを名前で呼ぶことにドキドキしているせいか。 「海斗ー!取れたぞー!」 「ありがとう!すっかり全部達也に任せちゃった。」 「確かに笑、でも、いいんじゃない?なんとなく。」 「そうかな?」 奈緒ちゃんとは教室ではあまり喋らないけど、意外と話好きなのかな?それにすごく距離が近い気がする。 肌と肌がよく触れ合い、その度に心が跳ねる。そしてその度に吉井さんへの好意を再確認する。 そこから先は夢のような時間があっという間に過ぎていった。遊ぶにつれて奈緒ちゃんは達也と一緒にいることが多くなり、僕は僕で意中の人とたくさん喋れて幸せに満ちていた。 水平線の向こうに落ちかけているオレンジ色の灯りが、昼とはまた違った雰囲気を醸し出す。 僕は吉井さんと二人、砂浜に腰を下ろしていた。 波の音という心地よいノイズが耳を優しく撫で、海面に映る淡いオレンジが心を撫でる。 キラキラした景色に囲まれた僕の心は静かに緊張していた。 「今日はありがとう。」 「こちらこそ、私たちを誘ってくれた達也くんに感謝だね。すっごく楽しかった。」 「それは良かった。」 砂浜に適当に置いていた片手に、吉井さんの手が触れる。橙色の彼女の顔に見惚れていた。 愛しく見えたその顔がだんだん近づいてくる。 「海斗くん、」 「小夜さん、」 名前を呼び終わるころには、唇に柔らかい感触がした。甘い味がする。 「ふふっ」  「どうしたの?」 「なんでもないっあっ私先行ってくるね。」 「え、あ、うん」 これはたぶん彼女も僕を。 彼女が去った後、僕は僕を俯瞰してしまった。 夕焼けに染まった砂浜に、好きな女性と二人座って。波の音を聞きながら口づけをした自分を。 「小夜さん うっハァハァハァハァハァハァッくっそ!はぁ息が、はぁはぁ。。。あ"あ"あ"っ」 よかった、彼女が去った後で。僕は胸を抑えながら息を荒げていた。 「海斗?海斗!」 遠くから達也の声が聞こえてくる。呼吸困難により意識を失いかけていた。 「大丈夫か!」 抱えられる。 「うっ」 「やっぱ無理だったか、ごめん!俺のせいだ!誘わなきゃ、、、」 「い、いいんだ、僕が決めたことだし、うう」 「くっそ、とりあえず救急車呼ぶぞ。よく考えれば今のここって」 吉井さんの心配する声を尻目に意識は落ちた。 「どうしたの?海斗くん?達也くん、海斗くんどうしたの!」 「実はな、海斗はキラキラアレルギーなんだ。」 「は?こんなときになんの冗談を」 「冗談じゃないんだよそれが。それを知ってて誘った俺がこれは悪い、甘く見ていた。くそっ」 「どういうこと?その、アレルギーって」 「漫画でもありえなさそうな病気なんだけど、過去のトラウマが原因で、本人がキラキラしていると感じるものに対して拒絶反応が起こるんだ。今こいつがこれを発症したのは多分、夕焼けと波の音と、あと何だろう?いや、今はいい。とりあえず」 「私のせいだ、私が。」 「待って。なんだかよくわかんないけど、セレナ、今はいいから!今はそういうこと考えないで。ね?」 「う、うん。」 夕日はとっくに落ちていて、夜になっていた。 救急車のサイレンが赤くキラキラと光っていた。
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