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プロローグ
「連絡してこないでくれ」
私、有若雫月は、四年付き合った松岡貴史に振られた。
いや、振られたんじゃない!友達の長原美幸に奪われた!
あれは大学生の頃、仲の良かった先輩と一緒に遊びに行くことになって、その時に先輩の彼氏が友達を連れてきた。それが貴史だ。
二人共、車が好きで、あっという間に意気投合。何度か連絡をしてから会うことになって、それから付き合うことになった。
そして大学を卒業して社会人になってしばらくして、高校の同級生の美幸が派遣社員として私と同じ部署で働くようになった。彼女とは高校の時に接点はなかったけど、話も合って親しくなっていった。
一度、町で美幸に声を掛けられて、一緒にいた貴史のことを彼氏だって紹介したこともあった。だけど、まさか二人で会っていたなんて考えもしなかった。
「雫月は、長原さんを虐めているそうだな?雫月がそんな奴だと思わなかった」
貴史にそう言われて、頭の中は???だったが、視界に入った美幸の顔は性悪女そのままに笑っている。ニヤッと。
ああ、もしかして、嘘を浮きこまれて信じたパターン?
私が他人を虐める悪女パターン?
彼氏を奪われたパターン?
貴史が、まるで汚物を見るような冷たい目で見ているのを感じて「ああ、何を言っても信じてくれないんだ。四年も付き合った私よりも、美幸を信じるんだ」そう思ったら、返事をすることも貴史を引き止めることも、何もできなかった。
雨が降り始めたオープンカフェの隅で、私は二人の姿をただ見送った。
耳に届くのは、地面に叩きつける雨の音だけだった。
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