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「堀内君じゃないか。久しぶりだね」
「菊池さん、真寿美さん。こんにちは。週をまたいで出張で、マスターの味が恋しくて駅から直行ですよ」
そう答えたのは、堀内拓真29才。国内の大手システム開発会社に勤めている。
ここシエスタに来るようになり2年近くになる、彼もまたシエスタの常連だ。
背が高く、おそらく180は越えているだろう。会社員としての身だしなみは完璧。チャコールグレーのスーツにパリッと糊の効いたワイシャツ、この日は紺のネクタイを締めている。
ジムにでも通っているのか、その体躯は服の上からでも想像できる程、肩や腕、そして胸の筋肉が発達している。だからといってスーツが似合わないわけではなく、きちんと着こなしていてできる男を演出している。
目は切れ長で睫毛は長く、スッと通った鼻筋に、薄い唇。長めの髪は襟足できれいにまとめられている。サラリーマンとして見本のような姿だ。
「マスター、コーヒー1つ」
いつものカウンターに座り、大場にいつものように注文をした。ここへ来ると大場がおすすめを入れてくれるので、注文の仕方はいつもこうだ。
「新しくブレンドしたのがあるんだ。飲んで感想を聞かせてくれるかい?」
「新しいブレンドですか?いいですね」
マスターが新しい豆を仕入れる度に、楽しそうにブレンドをしているのは常連客ならみんな知ってることだ。
メニューのブレンドはいつもの配合で提供し、常連客には試作品で感想を求めるというのがシエスタの決まりになりつつあった。
豆が挽かれる音を聞き、コーヒーの抽出される香ばしい香りが鼻腔に届き、思わず笑顔になる。
出されたコーヒーを受け取り、香り立つ香りを堪能してその一口を口へ含んだ。
「堀内君は週をまたいで出張だったな?それなら雫月ちゃんのことは聞いてないだろう」
「雫月って、有若さんに何かあったんですか?」
「彼女、この間の週末に彼氏に振られたといって泣いて大変だったんだよ」
菊池の言葉に、堀内は手に持ったカップを落としそうになる。
「フラれた?」
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