主人とペットの決め事

1/1
前へ
/7ページ
次へ

主人とペットの決め事

「……んんっ……あったかぃ……」 モゾモゾと動き温かさを覚え目を開ける。寝ぼけまなこで温かさの正体がなんなのか見る。 「?………あ!」 目が覚醒した私の隣には彼が眠っていた。しかもガッチリホールドされたまま。これではここから出る事が出来ないそれに加え、強く抱きしめられているから私の力ではどうする事も出来ない。 (茉弘って結構力強いんだよね……後少し苦しい。) 身長差的に私の方が低いから彼の腕が私の顔に当たり、息がしづらい。苦しいので彼の服を引っ張り彼を起こす。 「………ん………あ、弥生起きたのか」 彼が起きた。まだ抱きしめられたまま。このままでは力が強くて圧迫死しちゃいそうなくらいひ弱な私には辛い。 「ぅん……離して欲しいの」 「何で?」 彼は心底理解出来ない顔をした。まだ寝ぼけているのか私の顔色が分かっていなかった。早く離して欲しい。このままいけば死ぬかも。いやそれは言い過ぎかもしれない。 「力強くて………息……苦しい。」 「あ、ごめん。大丈夫?」 私の顔色が真っ青な事に気が付いたのか彼は慌てて離れる。本当は離れたくないが状況が状況なだけに離さないと最悪私の息が出来なくなる。 「ふぅ………もう大丈夫。」 離れた事により深呼吸をして息を整える。苦しかった呼吸も開放されたおかげで空気が吸えるようになった。 「本当か?」 「うん!」 彼に抱きつき、安心させる。 「でも次からは身長差を考えてから抱きしめてね。」 「………分かった」 彼に忠告した後明らかに落ち込んでしまった彼を力いっぱい抱きしめる。私なら大丈夫力は強くても平気。でも顔周りは駄目ってだけ。彼を慰める。 「あ、そうだ、今何時かな?」 「7時だな。」 時計を見ると彼が言った通り7時だった。あの後気絶しちゃったからご飯の下準備も何も出来てない。 (どうしよう今から準備したら間に合うかな?) 夕食の準備が出来ておらず内心慌てていた。何故なら4時に下準備をして5時に終わらせていたのだ。それ故に今まで一度も遅い時間になった事はないので初めて準備が遅れてしまい、彼のご飯が遅くなってしまうと焦りを感じていた。 「どうしたの?」 「夜ご飯の準備しないと……」 弥生の様子がおかしい気が付いた茉弘は尋ねる。彼女はオロオロした感じに萎縮しながら答える。 「じゃあ今日は早く寝ようか。」 「ごめんなさい……」 まだ早くから寝る事に対して彼に謝る。不出来な彼女でごめんなさいと言う意味を込めて。私は昔からいつもこうで肝心な事が抜けてる事がある。だから前付き合っていた彼にも捨てられたのかも。また捨てられないようにしないと。 「別に平気だし、弥生が気にする事無いだろ?」 「うぅ……。でも茉弘がご飯食べれない………」 彼は優しく私に接してくれてとても有難かった。でも本当は食べれないからと怒ってるのかもしれないし呆れられたのかも。ネガティブな思考が頭をグルグルと駆け巡る。 「大丈夫。僕の言葉だけ聞いて信じればいい。」 「うん……。」 何だか安心する。一気にネガティブな思考が晴れる。そうだよね彼の言葉だけ信じればいい。彼以外の言葉は今は拾わなくてもいいよね。私は可愛くないし何の取り柄も無いけど彼の隣に居れる事だけが今の私の幸せ。 「そうだ弥生。」 「何?」 急に呼ばれ、キョトンと彼を見た。何やら話があるみたい。内容は分からないけど。深刻な話ではなさそうなのでベッドから起き上がる。 「2人で僕たちだけのルールを決めよう」 「ルール……例えばどんな?」 彼がルールを決めると言われた私は困惑する。今までそんな事一度も無かったのに急にどうしたんだろ……。やっぱりルールとして早めにご飯を出せとか。或いは先に寝るなとかだったりして。あ、それは前の彼氏か茉弘は違うよね。 「ん〜そうだな…例えば………」 「弥生が朝の目覚ましとか?」 例え話が予想外の事を言われ、また困惑する。目覚まし?朝のコールをすればいいのかな?とプチパニック状態。 「え…………と?おはよう!って言えばいいのかな?」 「それもだが、しゃぶるんだ僕のを」 元気よく身振り手振りをして表現する。がどうやら違ったみたいで予想だにしない事を言われる。 「え……それって………/////」 「もちろん出たものをきちんと飲んで貰うから」 言われた事に身を震わせる。つまりは彼を起こすのに彼の性器を口に咥え舐めて起こせと言われ、彼が自分の事を物のように扱ってくれた事に喜ぶ。 「お前は僕専用のメス犬だろ?出来るよな?」 「あっ♡……はい♡ご主人様///」 あからさまに首輪をグイッと引っ張られ、声が漏れる。 夜だけじゃなくて朝も彼に支配されるんだと悦んだ。 「いい子だ。後は……紙で書き出すか。」 そう言って彼は首輪から手を離し机に座り、引き出しから紙とペンを取り出しスラスラと何かを書いていた。 「ザッとこんなもんか。」 「ほら、弥生読んでみろ。」 何分か紙とにらめっこをしては考え、その後動かしていた手を止め、ペンを置き私の方に向き直り、用紙を渡される。 「は、はい。………えっと?」 弥生は彼に渡された用紙に目を通す。 主人とのルール その1、朝に性器をしゃぶり気持ちよく主人を起こす事 その2、主人の命令には背かず絶対的に従う事 その3、何処でも主人に誘われたら必ず身体で答える事 その4、帰ってきた主人の物を差し出されたら舐める事 その5、人がいる前では名前で呼び普通に接する事 備考、上記を破ったら即お仕置き 備考2、辛い時、体調が悪い時、生理の時は無効 「備考2の欄が配慮の塊だ………。」 備考2を見てみると彼の優しさが伝わって来る。生理の時は生理痛で酷くて何も出来ないし食べる事もままならないから正直これは有難いなと思った。私だって生理は毎月来るけど痛くて来ないで欲しいくらい嫌だけどその度に彼が優しい言葉を掛けてくれて配慮もしてくれるし、デートの予定も変えてくれたりと色々してくれたりした。それが1番心に響いた。前の彼氏は理解が無かったから。風邪を含め。 「当たり前だ。体調が悪いのにするとでも?」 当たり前と言ってくるあたり彼も苦労したのだろう。元女性だったから。だから理解出来るんだ。生理痛がどれだけ辛いかとか。私も女になるまで分からなかった。だから生理痛に効く薬を手放せないし。その事で恥ずかしい思い出があるけど……ね。 「思ってないよ……だって茉弘は誰にでも優しいから」 「…ま、それならいいけど…」 彼は私だけじゃなく誰にでも優しいから。だからこんな事が出来て配慮も忘れない。これが所謂スパダリ?かぁ。 (優しい……か優しさを見せるのは弥生限定だ。) 嘲笑うかのように失笑する。実を言うと彼、星田茉弘と言う人間の本当の姿は弥生が思っている程優しとはかけ離れている存在なのだ。殺し屋の上層部であり冷酷無慈悲なキラーハンターと呼ばれている。そんな彼は恋人には冷酷さも無慈悲にもなれない。ただの彼女バカ。殺し屋仲間で同期にも優しさを見せないのだ。無論後輩にもだ。その事を弥生は知らない。 「この紙に書いてある事明日からすればいい………の?」 「そうだな。」 用紙から目を離し、彼の顔を見てから確認すればその通りだと肯定する。用紙には恥ずかしい事しか書いてないけど、凄く嬉しい。帰ってきたら自分の事を使ってくれるそんな幸せな事はないだろう。5の欄には普通の恋人として接すればいいのかな。じゃあ2人きりだとご主人様なのかな。 「えっと……5の欄ってどういう意味なの?」 弥生は最後の欄の意味がよく分からずいたので疑問に思った事を彼に聞くことにした。理解してなかったら意味が無いと自分自身そう思ったから。そして何より彼の言った事を理解したい。後、3の欄もよく分からないし。 「ん?あぁ、2人きりの時は主人とペットだろ」 「う………うん///」 実際そうなのだが、そんな風に言葉にされると急に恥ずかしくなるが茉弘は涼しい顔さて平然としていた。 「他の誰かに見られない為だ。浅い関係の奴ら尚更」 茉弘にとっては誰でもいい訳では無い仲のいい人以外信用せず関係性も黙秘する傾向にある。危害を加えられるかもしれないそれが恋人なら尚更知って欲しくない。 「確かに!……あ、後3の欄も誘われるって夜の事?」 「場所を問わず何処でもだ。」 用紙に書かれているその3の所を指で指して疑問点を追求する。誘われる時は夜限定だと思っていた弥生だが予想外の事を言いだす茉弘を見て固まる。 「風呂、休みの日、デートに行った時とかだな。」 茉弘はザッと簡単に説明するが、恥ずかしい事を淡々と話すのを見てこちらが羞恥心に駆られる。 「デート中もするってこと?///」 「そうだな基本誘われたら。そうしないとな。」 チラッと茉弘の方を見る。顔を見るだけで胸が高鳴る。明日からご主人様に誘われたら身体で答えないといけないという事に身体がじんわりと熱を帯びる。 「あ、ご飯食べてる時とかにオナホみたいに使うとか」 「う、うん……////」 茉弘はわざとらしく弥生の方をチラ見しながら願望を口に出し、彼女の反応を見ていた。顔を火照らしているのが可愛く少し意地悪な事を言いたくなった。 「犬コスで迎えてくれるのもいいな。」 「それ凄く恥ずかしいよ………///」 ニヤニヤしながら言ってのけるが弥生はそれに気付かない。茉弘の言われた言葉に興奮していた。顔は赤面しているが表情は悦んでいた。 「お腹の下に印を付けないとな。」 「えへへ、私茉弘の物になっちゃうね……////」 茉弘のトンデモ発言も弥生にとっては喜びの感情しか無かった。それくらい心の底から彼の事が好きで何をされても構わないというスタンスだった。それは茉弘も理解しているのか欲望を口に出す。 「弥生出来るよな?さっき言った事」 「はい♡///やらせていただきます♡」 顔を背く事が出来ない様に顎を掴む。目止めが合わさり、身体がゾクゾクと興奮する。 「それでこそ僕の弥生だ」 「えへへ///」 褒められて嬉しそうにはにかみながら笑う。その笑顔はとても愛らしかった。彼は常に無表情だが心の中では弥生に対しての愛情で埋め尽くされていた。それ程までに彼女だけを溺愛しているのだ。実際問題彼は弥生にしか興味が無いし欲情するのも自分の彼女だけだ。だからこそ支配したい欲求に駆り立てられ、彼女が自分から逃げないよう自分に溺れさせたいと常日頃から考えていた。 「弥生専用の椅子も用意するか」 「私専用の椅子?」 顎に手を当てて考える素振りを見せる。弥生は彼の言う自分専用の椅子と言う言葉に疑問を抱いた。椅子ならあるのにも関わらず新しい椅子を買うのかなと考えていた。 だとしたらまだ今使っている椅子はまだ使えるし買い換えるくらいボロボロでも無いのにと弥生は思った。 「そうだ。毎日それに座るんだ。用意するか…」 「え?」 茉弘は"用意する"と口にし、まるでその椅子がこの家にあるみたいな言い方だった。そして困惑した、自分専用の椅子なんてそんな物この家には無いのだから。倉庫に置いてあると言う事なのだろうか。と思考をぐるぐるさせ考えても分からずキャパオーバーになっていた。 「あ………行っちゃった。」 (きっと私の為に作ってるよねうんそうに違いない!) プチパニック状態の弥生は、?で埋め尽くされていて気が付いたら彼は部屋から出て行った後だった。きっと今頃作業をしているのかとか、どんな椅子なのかと、頭がパンクして考えるのも諦め軽く現実逃避をした。 「用意出来たから来て。」 「う、うん………。」 ガチャリと扉を開け、早い帰りだった。体感的には10分くらいで、2、3時間は掛かると思っていたのに驚いた。弥生は茉弘が何をして部屋を出たのかすら分から無かった。そして戻って来て早々弥生の手を握り、部屋を出た後手を引かれ誘導される。何か分からないがとりあえず着いて歩く。茉弘がリビングの扉を開け、前に進む。 「ほら、これだ。」 「コレは////」 茉弘が椅子を引いて見せる。それを見た弥生は顔を赤面させる。その理由は見せられた椅子の中心に男の性器みたいな形状の透明な物がその椅子にくっ付いていたから。これには弥生も驚かずにはいられなかった。 「明日からコレに座る事いいな。」 「はい♡ご主人様」 椅子の背もたれの部分の上に腕を置きながら弥生を見据える。その目は絶対的に支配をするという事を出しその目を見た彼女は反射的に従う。 「これでルール決めは終わりだな」 「思いのほか沢山あったね!」 暫くして部屋に戻った後話をした。2人だけのルールを決めて話して、今日は茉弘と沢山話せて私は幸せな日だなと上機嫌になる。普段口数が少ないけど茉弘は楽しそうに話してた。だから私も嬉しくなった。前はデートの時は楽しそうにしてたけど家に居る時は楽しく無いって顔してたからそれも不安だった。キスもしてくれて優しいけど茉弘自身抑えて我慢してたんだと思う。だから私はもう我慢なんてしなくてもいいんだよって今は思ってる。 「そうだな。」 「話し込んでもう夜の9時だね。」 時計をみると夜の9時を指していた。彼と話すのが楽しくて時間を忘れてしまう。それはいつもの事だけど、今日は何だか特別時間が過ぎるのが早い気がする。それは私の気の所為だって分かってる。時間は平等で待ってはくれない。 「確かに。今日は寝るか?」 「ううんちょっとお話してからがいい!」 ベッドに座りながら彼が寝るか否か聞いてきたが私は茉弘と話したくて彼の隣に座る。 「ふふ。その友達と仲がいいんだね。」 「そうか?」 あれから暫くして私たちは会話に花を咲かせていた。彼は友達が沢山いるらしい。羨ましいな、私はそんな存在いないし出来た試しが無い。だって女の子は皆美人だったり可愛かったりと近寄り難いし。私なんかがそんな人と友達になるなんておこがましいと思っているし何より地味で目立たない私といたら可哀想で近寄れない。 「うん。私にもそんな友達が居たら良かったのにな………」 「友達居ないのか?」 願望を零すと惨めに感じた。彼は優しくてそれに加えてカッコイイしモテてるから、最初告白された時は信じられなかった。何で私を選んだのか何処がいいのか。他の人よりこんな平凡で何かに秀でてる訳では無い自分が選ばれたのか。茉弘にとっては選びたい放題のバーゲンセールなのにと弥生は思った。 「うん。ほら私元々は男だったからさ」 そう私は元々男だった。訳あって今は女の子として生きている。女の子になる薬を飲んで性別も名前も変えて今も生きてきた。女の子になったのは学生の時。母親に女になった姿を見せたら否定はせず "自分の好きなように生きなさい" "どんな姿になっても貴方はお母さんの子よ" と応援してくれた逆に父親には勘当された。家を出た時の母のあの申し訳なさそうな顔が今も残っている。母が悪いんじゃない父が全面的に悪い。無職で何もしない父よりワンオペ状態で私を育ててくれた母は私の中で偉大な存在だった。 「そうか……僕も元々女だったし。」 彼も実を言うと私と境遇が似ていて、女から男になった。 女だった昔は男にモテていたらしい。確かに今の彼もイケメンでカッコイイなら女の子の彼は大層美人だったのだろう事が容易に想像出来る。私も美人だったら良かったのにそしたら堂々と茉弘の隣にいられるのにな。そんな事を思い考えていた。 「いきなり男になって家族は反対しなかったの?」 「…家を出た後だったからな。男になったの」 私は変わった姿を見せたけど彼は違ったみたい。一人暮らしをした後に男になったから家族には会いずらいよね。だから彼は家族の話をしたがらないのかと弥生は思っていたが実際は違う。家族に黙って家を出て失踪して殺し屋になったと言うのが真相だった。職業が職業なだけに言えない事が多い。だから彼女である弥生にも現在進行形で自分が働いている所が殺し屋だと明かさず秘密にしている。 「そうなんだ…」 「そうだ。まぁ、今更会いたいとは思は無いし。」 「ふわぁ……私そろそろ部屋に戻る………ょ」 「あぁ、分かったおやすみ」 「ん〜おやしゅみ〜」 (眠たそうにする弥生は可愛いな。) 眠た過ぎて呂律が回っておらず舌っ足らずな喋り方になる彼女を見て茉弘は愛しい物を見る眼差しで見ていた。 彼の中では自分の彼女が世界一可愛いと自負してる。それが彼女自身可愛くないと言っても彼にとっては可愛い自慢の彼女なのだ。そして弥生は目を擦りながら部屋から出て自分の部屋に戻った。 「さて……と、弥生も寝ただろうし僕も寝るか。」 弥生の事を思い出しながら寝る準備をする。きっと今頃彼女は夢の中だろう。あの愛らしい彼女の寝顔が見れないのはこの上なく残念だが仕方が無いと思い諦める事にした。 そして布団に入って眠ったのだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加