1.ある日の回想

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「異論のある者は手ーあげてー」  ひらひら、と顔の横で右手を揺らす。手を挙げる者も、声を挙げる者もいない。 「んじゃ、周知よろしく」  顔横にあった手を元に戻す。隊長達に動く気配はない。 「ん? よろしくって言ったんだけど。返事は?」  部屋は静まり返ったままだ。 「じゃあ、斎川。理解したなら肯定を、理解していないなら否定をしろ」  俺が声を掛けると、僅かに肩を揺らし、斎川は「わかった」と小さくだが返答した。 「城ヶ崎」 「……理解した」  そうして、次々と声を掛ければ肯定が返ってきた。会合は順調この上ない。そうして、最後、書記の親衛隊隊長も「わかった」と返事をしてくれた。 「うんうん、いい子だねー。まぁ、そんなに重く考えないでしょ。恐怖政治をするつもりではあるんだけど、何もしてない奴らに何かしようって気は全くないし、君たちがいい子にしていてくれるなら、それなりにご褒美はあげるつもりだから。俺ってばこう見えてまじで優秀だから、君たちが欲しいって情報ならいつだって、いくらだって用意してあげられる。情報以外のものだって、できる限り融通してあげるよ。だからほら、悪い話じゃないだろ?」 「……こんなやり方で俺たちを従わせようとしている奴を、信用しろって?」  書記親衛隊隊長の続きがチラと視線を寄越す。 「まぁそう思うのも無理はないよな。信用はこれから得ていくことにするよ。でもさ、お前達にとっても悪い話じゃないはずだろ? そりゃあ、レイプ大好き♡ って碌でもない考えを持ってなければの話だけど、親衛隊がレイプ制裁をすれば風紀が出張ってくるし、それが漏れれば親衛対象からの印象も一気に底辺だ。レイプに手を貸した、貸してないなんて関係なく、誰もが等しく底辺に落ちる。  お前らはレイプ制裁肯定派なのか? こんなの、世間一般では一度で経歴が真っ黒になる犯罪だぞ。それが普通に起こっているこの学園の異常性に気付け。そして、改めろ。  俺のやり方が強引だってことは分かってる。でも、根本は世間的には極当たり前のことを言っているだけだ。その認識をただ広げろって言ってるだけのこと。本来、守れて当然のことのはずだ。何か、間違ったことを言っているか?」  俺は、レイプ現場なんて見たくない。というより、他人の勃起した小汚い性器を目撃したくない。総隊長になんてなったら、絶対に制裁が起こったら風紀に呼び出されたり、親衛隊員から報告が来たら行かざるを得なかったりする立場になる。今までみたいに、関係ないからって見て見ぬふりなんて出来なくなる。  だから、総隊長という立場になったのならレイプ制裁なんて俺へのお目汚しは一切なくしてやりたい。  正義なんかではなく、完全に自分のため。でも、凄く正義に聞こえるんだから不思議だ。  至極真っ当なことを言っている俺に、不機嫌極まりないといった表情だった隊長達の表情もそこそこ落ち着いてきた。思ったよりも常識が備わっていることに安堵する。
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