1.ある日の回想

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「まぁ、俺と紀仁の話はこれくらいでいいだろ。で? 他に異論のある奴は?」 「異論っていうか、そもそもアンタが総隊長ってのがまず気に入らねぇ。タメ口なのも気に入らねぇしな。理事長はなんでお前なんかを任命したんだ?」  机に頬杖をつき俺を睨むのは、一匹狼クン親衛隊隊長の夜川だ。さっきからビシバシと視線を感じていたから、ようやく喋ったなという気持ち。 「理事長が俺を任命した理由は、なんとなーく分かるけど教える義理はない。で、敬語を使わないのは俺がお前らのトップである総隊長だから。立場に年齢は関係ねぇだろ? 俺が上で、お前らが下。上下関係を正しく認識してもらうために、年上であっても敬語なんか使わないよ」  俺の物言いに、室内の温度が少し下がったかのようにシンと空気が冷えた。 「もう質問コーナーはいい? 本題の続き話してもいい?」  そう尋ねてみても、誰一人返事をしない。うん、想定内だから気にはしない。 「俺が親衛隊に求めるのは、レイプ制裁禁止ってだけ。だからと言って、暴力の制裁どんどんしてねって事でもないから、そこは勘違いしないように。そんで、お前たちにやって欲しいのは、それぞれの親衛隊への勧告の徹底。どれだけ末端の親衛隊員にも、レイプ制裁禁止って事項を徹底的に周知させろ。同時に、レイプ制裁を匂わせる言動を見聞きしたら即紀仁に連絡するようにも周知させろ。周知が行き渡らずにレイプ制裁が起こったら、その親衛隊の隊長にもペナルティを科すからそのつもりで。なお、異論は認めない」  一応は静かに聞いていた面々も、〝隊長にもペナルティを科す〟の辺りで表情が変わった。俺への反抗心がメキメキと膨れ上がっているのを感じる。 「紀仁」  俺は、ブレザーの胸ポケットに入れていた紙を紀仁に渡した。紀仁は何回かに折り畳まれた紙を丁寧に開くと、副会長親衛隊隊長の斎川の場所へと移動し、誰にも聞こえないように耳打ちをした。すると、一瞬にして斎川の顔が青ざめる。  続いて、同じように隣の城ヶ崎にも耳打ちをすれば、サッと城ヶ崎の顔面から色が消える。  その様子を見ていた他の隊長たちは、異様な空気を察してか訝しんだり、顔を強張らせたりと表情を変えた。とん、とんと紀仁の耳打ちが進むたびに顔色を無くしていく光景は、少し滑稽だ。    俺が紀仁に渡したのは、いわゆる弱味だ。俺はこの会合が始まるまでの一時間で、彼ら親衛隊隊長の弱味を握るべく情報収集をして一番効きそうなネタを仕込んでいた。  最初から難なく俺の言うことを聞くとは勿論考えていなかったから、無理矢理言うことを聞かざるを得ない状況というものを作らせてもらう。  物事を円滑に、かつ迅速に進めるのに最も重要なのは情報だ。その代わりに隊長たちから恨まれようが、どうだっていい。どう思われようが、俺は俺の我を通す。  尤もそれは俺の為に他ならないが、そうすることでレイプ制裁っていう最悪な案件がなくなるんだから、学園のためにもなっているのだし万々歳だろう。  紀仁が俺のところに戻ってくる頃には、俺ら以外の顔は蒼白になっていた。思ったより効き目があって、俺的には大満足だ。必死に収集に充てた時間が報われた。
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