1.虹色の竜

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1.虹色の竜

 虹色の竜。  それは、いつも空に浮かんでいる。  20XX年、東京ー。日常へ完全に溶け込んでいるので、その竜の存在について、深く考えたことはない。空に浮いていることを疑問に思う人も誰もいない。空高く、晴れの日も雨の日も、雪の日も、いつも街の上空には、キラキラと虹色に輝く竜が一体浮かんでいる。  ゆらゆらと身体が風に吹かれ、顔などはあまりに遠く肉眼では見えないが、動かないということは眠っているのだろう。皆生まれた時から上空にそれがいるものだから、「あ、今日もいるな」と毎朝起きて窓を見て無意識の中で思うのだ。  何十年かわからないが、少なくとも僕が生まれた時からはずっとこの街の上空に、虹色の竜が浮かんでいる。  異変は、ある日突然起きた。 ある曇天の日、目を覚ましていつもの通り窓の外を見ると、竜がいない。  僕は特に何も思わなかった。あ、今日はいないんだな。と思った程度だ。母さんに「今日、竜がいないよ」とだけ声をかけて、大学へ出かけた。  その時は、何も感じなかった。物心ついたときからずっと浮かんでいるものが消えていることに、多少の違和感はあった。ただいつも浮かんでいる雲がたまたまその日そこに無くとも気にも留めないように、家から足を踏み出した時には完全に竜のことなど忘れ、今日のテストの事を考えていた。  この時はまだ知らなかった。ただそこにあるだけと思っていたものが変わることで、どれほどまでに生活が一変するのか。この日から、僕の人生の歯車が狂い出したんだ。いや、もう何年も前から狂っていたのかもしれない。
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