3.異変

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3.異変

 どんよりとした曇り空に、木枯らしが鳴いていた。家に帰ると言い表しようのない違和感があった。試験の最終日はいつも、母さんが僕の大好物のシチューを作って待ってくれていて、2人で試験はどうだったとか、最近はスーパーのパートが忙しいとか、とりとめもない話をするのが恒例だった。    今日は、どうも母さんの様子がおかしい。部屋に入るや否や僕はその異変を感じ取った。いつものシチューの匂いがしなかったのだ。玄関から廊下を通り抜け、リビングの母さんのいる部屋へ入った。母さんは神妙な顔つきでテーブルに座っていた。 「どうしたの。」 僕は怖くなって尋ねた。何故だか分からないけど、母さんが普通じゃなくなってしまう気がして今すぐに何かを聞き出さないといけない焦燥感に駆られていた。 「翔、おかえり。」 母さんの手元には、一枚の封筒が置かれていた。何かに怯える様子で、肩を大きく振るわせていた。 「それ、なに。」 僕は尋ねた。 「…」 僕はテーブルの封筒を取り、素早く開封した。宛名は、兄の(いつき)からだった。 兄は僕よりも4歳年上で、化学系の素材メーカーの研究職として都内に勤務している。就職時から一人暮らしをしているため、母さんと僕とはもう3年程別居になる。
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